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第41話
夏休みに入った。どこにいても暑く、アイスみたいに溶けてしまいそうだ。今日も床に寝転び、冷たいタイルに顔を当てる。すぐにぬるくなるから、まだ位置を変えたりと動きながら。
今日も俺はチャイムを待っている。1日の大半を京を考えることで過ごしていた。今何をしているのかとか、今誰といるんだろうとか、ちょっとだけ昔の恋人のことについて聞きたいなとか。
今日もチャイムがなり、俺は駆け足で玄関まで走る。母親を待つ子供みたいだって、京に言われたが、母親なんてどんな顔なのかすら覚えていない。まだ生きていたら、俺は今の俺とは変わっていたんだろう。もっと素直で、思いやりがあって、ちゃんと笑えるそんな俺に。
扉を開け、京を迎えようとする俺よりどっしりとした体がこちらに向かって倒れてきた。貧弱な俺では支えられることも出来ず、そのまま一緒に倒れる。玄関の扉で頭を少し打って痛い。
「もう、なんなの......」
頭に手を当てながらかかってくる体重を押しのけ、顔を出す。少し熱い。熱だろうか。
「京? だいじょ......」
顔を見ると、それは京じゃなかった。「ひっ」と悲鳴をあげ思わず突き飛ばすと、その人も床に頭をぶつけてうっ、と唸る。
「ごめんね。灰人の家の前で倒れてたから連れてきちゃった」
後からひょこっと顔を出す京は、チャイムを鳴らそうと体を動かした時に手を離してしまったそうだ。ちゃんと持ってあげろよ、もう。
「寝かせてあげてくれない? 勝手なお願いで悪いんだけど」
「あ、うん。わかった」
急いでしわくちゃになったらベッドのシーツを綺麗にし、お風呂を沸かす。泥だらけだったし、臭いので、せめて汚れは落としてほしい。
「俺が入れとくから、灰人はお粥でも作ってくれない?」
「で、でも、俺下手かもしれないし」
「灰人なら大丈夫だよ」
そう言って風呂場に行ってしまった2人の後ろ姿にあーあと、溜息をつく。
少しだけ嘘をついてしまった。下手とか本当はどうでもよくて、ただ、初めて作るなら京のために作りたかったのに。
目の前に倒れている人がいても尚、自分のことしか考えられない。京と出会ってから、我儘のシャベルが奥深くまで掘っては欲深くなっていく。
「先輩、できたよ」
出来たてのお粥を持ち、洗い終えて綺麗になったその人の元へ運ぶ。俺の枕で気持ちよさそうに眠っているそいつに、何故か蹴りを入れたくなった。
「ありがとう。先に、俺も食べていい?」
期待していた言葉に、大きく頷くと、スプーン1口分をすくう。開けられた口にそっと入れると、京は美味しいって笑って俺の頭を撫でた。俺を喜ばせる天才だなと、にやける頬を抑える。視界に入った俺の布団で寝るそいつに、優しくしてもいいかなと思えたのは、やっぱり俺が単純だからのようだ。
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