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第43話
「そうなんですよ、僕たち遠い親戚って感じです」
丁寧な言葉で話す様子は相変わらず変わっていなかった。人懐っこくて、誰とでもすぐに仲良くなって、俺がしんどかった時期もずっと支えてくれていた。だけど、そんな洋が少しだけ苦手だったりする。
「兄さんに会いに来たんだ。1週間だけ許可もらったの」
「なんで、俺に......」
「会いたかったからって理由だけじゃだめなの?」
大きい手のひらが、俺の手を両手で包む。
「元気にしてた?」
「......うん」
あの家にいるよりかはずっと、ずっと幸せだった。俺だけを可愛がってくれる人はいなかったが、今は先輩がいる。
「はーーい、そこまでね、従兄弟だろうが俺の灰人くんなので」
優しいが力強く俺を引っ張られ、包まれていた手から引き離される。そのまま京の腕の中にぴったり収まるが、足はもつれて全体重で寄りかかった。耳の横には京がいて、耳を甘噛みされる。
「......っ!?」
「ごめん、あたっちゃったー」
棒読みのセリフに、なんの悪びれのない顔。絶対嘘だろと思いながらも、洋を見ると凝視されていた。何かを探るような目に、京の関係がバレたと思った。あぁ、もう、最悪だ。
洋はすごく優しい。ただ、彼には難癖がある。昔から“俺の大事なものを欲しがる癖”が。あの時は、小さかったから仕方がないと思っていた。それでも、父親と母親からの遺産だというペンダントを取られた時からは、流石に許せなかった。従兄弟から庇ってくれた日も、嬉しかったが感謝はしなかった。庇うといっても所詮は、子どもの体。一瞬は止んでも、またすぐに始まる。それも、気が削がれたからか、またさらに力が強くなって。だから、俺はずっと彼のことが苦手だった。
「もしかして、君、1週間ここで過ごすの?」
「洋でいいですよ、兄さんが良ければそうしたいですね。兄さん、1週間だけいいかな?」
断れるものなら断りたい。でも、せっかく来た洋を追い返すような真似は、京に悪い印象を与えそうで怖かった。
「......こんなボロ家でいいなら」
部屋は確か1つすっからかんの場所があったはずだ。物も置いていないし、すぐ使えるだろう。ただ、問題なのはベッドが1個しかないって所だ。
「ベッドないから、俺の使う?俺は床でも寝れるし」
俺の部屋に洋を泊めよう。俺はそこら辺で寝ればいいし、適当に過ごせる。洋には、ありがとうとお礼を言われたが、京は顔を顰めた。
「ダメに決まってるでしょ。ないならベッドは俺が買うから灰人の部屋は灰人が使って」
「買うって大げさな。それなら2人で寝るから」
「は?」
今まで聞いたことがないぐらい地を這う声になんでもありませんと、項垂れる。わざわざ買わなくても、1週間だけなら我慢出来るのに。
どこかに電話し始める京に、まさかと思った1時間後、玄関のチャイムがなる。黒スーツの男組がズラッと並ぶ様子に正直若干引いた。
「京様、お久しぶりです。この度は当店のご商品をお買い上げいただきありがとうございます」
ベッドが2個運び込まれ、部屋に運ばれる。俺の部屋にも、もうひとつベッドが運ばれて、もしかして、京も泊まるのかなとソワソワしていると、俺のボロいベッドが回収されていった。
なんだ、買い換えたってことか。京は泊まらないんだ。
店員さんらしき人が京に電卓を渡して、値段を教えている。見るのが怖かったから見てないが、とんでもない値段になっているに違いない。だってこのベッド、すごいでかいし、綺麗だし、ふわふわだ。俺と同じくらいのテディベアもベッドの上に運ばれてきた。首飾りが真珠みたいだが、まさかな。
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