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第44話
「ね、兄さん。すごいいい人だね、高良京。友達だったなんて知らなかったよ」
京には聞こえないようヒソヒソと耳元で囁かれ、誘われるがままにベッドに寝転ぶ。友達じゃなくて、恋人なんです、とは白状できないまま、有耶無耶に返事をする。ベッドはトランポリンみたいに跳ねることも出来て、京達が話終えるまでしばらく遊んでいた。
「洋は京のこと知ってたんだ」
「当たり前だよ。今人気急上昇中の有名人だよ!?忙しくて表舞台に滅多に顔出さないって言われてるから不思議に包まれた人だったけど、こんな所にいたんだね〜」
「いつもはここにいないけど」
「ふぅん。僕も仲良くなれるかなぁ」
ぽわぽわと顔を赤らめて、京を見る洋に嫌な予感がする。京と仲良くなりたいって友達としてなのか、それとも。
やっと話し終えた京は、俺達を見て微笑を漏らす。
「2人して子供みたいだね。今からご飯作るから、もうちょっと遊んでていいよ」
台所に行こうとする京の服袖を少し掴み、俺も行こうとベッドを降りる。不安が拭いきれず、これ以上洋といたくなかった。
「今日は甘えモードの灰人か、可愛いね」
「可愛いとか言うな」
「はいはい。今日はなに食べたい?」
「オムライス」
実はちゃんと今日は何を作ってもらうか決めていた。オムライスは食べたことがないが、黄色の卵を割ると、中からご飯が出てくるらしい。なんだそれと、飛びついたのは料理の練習をしながらレシピを探していた時だ。
定番料理なのらしいが、全然知らなかった。最近、新しいレシピが頭に登録されていく。ちなみに、ご飯は少し作れるようになってきた。と言っても、20分で作れるという料理を1時間半で作るようなスピードだが。
「俺も今日泊まっていい?ベッドは、灰人の方で寝るから」
「え?さっきは一緒にって言ったらダメだって」
「......今度は広いからいいの」
卵を割り始めた京の手つきを目を離さずに見る。滑らかに動く手先は、見ているだけで楽しい。次々と進んでいく料理達が美味しい匂いを放って俺の前に並べられていく。見た目もツヤツヤと光っていて、添えられたソースはまさに高級料亭で出されるようなものだ。
「凄いですね、こんな料理初めて見ました」
洋も遊ぶのをやめて、こちらに来る。もっと1人で遊んでおけばよかったのにと、洋とは少し距離をとる。
「灰人、ほらここ座って。夢見も食べて」
「......ありがとうございます、いただきます」
ちなみに俺が作ったお粥は、京が1口食べたあとベッドの下に隠しておいた。だってなんか勿体ないし、京の食べたスプーンであげるのも嫌だったから。ってなんか、俺キモイな。
空腹だったのか、勢いよくオムライスを食べ始める洋は、口にケチャップをつけている。リスみたいに頬張りながら、あまり噛まずに口の中のそれを飲み込む。
「美味しいです。なんか、こんなご飯久しぶりに食べたなぁ」
「食べてなかったのか?」
「うん。ちょっとお金なくて」
だからあんなにボロボロになってたのか?汚れも酷かったし、匂いも臭かった。お金が無いままずっとウロウロしていたんだろうか。
「京さんって、兄さんと同じ学年ですか?」
「いや、俺の方が1つ上だよ」
「あれ?やっぱりそうですよね。兄さん、普通に話してたからてっきり同級生かと」
洋の言葉でやっと気づく。俺、そう言えばいつから敬語取れてたっけ。
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