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第46話

 「夢見もう寝た?」    食器を片付けながら、京は俺の方を振り向く。背中に目でもついているのかと思うぐらい、察知能力が高い。げんなりとした顔で頷き、こちらに近づく京を見ていると、洋なんか早く出ていけばいいのに、と心底思う。  「疲れた顔してるね」    心配そうな顔で、俺の前にかがみ込む。見慣れたはずの綺麗な顔に胸が高鳴った。  「ちょっとだけ休みたい」  「うん。無理しないで」  胸の音が鳴る度に、俺には身分不相応な恋人だと言う声が話しかけてくる。不安だ。とてつもなく。結局、両親のネックレスは返ってこなかった。  1週間、この家に来ないで、とは言えなかった。たった1週間と思われるかもしれないが、3ヶ月しかない。俺には一分一秒も無駄にできない。  「......その、洋には、あんまり近づかないで欲しい」  「一応聞くけど、なんで?」  「洋が先輩のこと好きになったら嫌だ」    きつく唇を噛み締めると、何処か嬉しげな先輩が立ち上がった。瞬間、ふわりと飛んできたシャンプーの香りに気持ちが高まる。  「想像しない所からカウンターくらった気分なんだけど。これは嫉妬かなぁ、嫉妬だよなぁ」  「別にそんなんじゃ......」  「うんうん」  俺の言葉なんか求めてないのか、何を言おうと聞き流された。もういいと突き放そうとすると、今度は力が強くて離れない。  「嫉妬もあると嬉しいけど、1番は夢見のこと、苦手だから?」  「え......」  「珍しく表情変わるなって思ってたんだけど、全部悪い方向だったから。顔顰めたり、夢見と距離取ったり。俺的に役得だったから何も言わなかったんだけどさ」  さっきまでとは打って変わった言葉に、正直に驚く。案外正確に分析されていた。全部お見通しだったようだ。  「昔から、洋と大事なものが被るから」  「ふーん......なるほどね」  ほんとに分かったのか?と、疑ってしまうぐらいには、即答だった。俺の話なんて半分ぐらい聞いてないのかもしれない。別に聞けとは言わないけどさ。  「大事なもの認定はされてるのは、素直に嬉しいね」  「あー、うん」    人生で1番かもしれない。失いたくない。取られたくない。そんな風に思って、離れたくないと思うのは。  「今日、一緒に寝たい」  「......え」  俺がいない所で何もあって欲しくない。起こして欲しくない。隠されたくない。そう思えば思うほど、昔の記憶を思い出す。洋が欲しいと言うと、俺はまたか、と決まってため息をついた。その時にはもう、守ることを諦めていたんだろう。  京が欲しいと言われれば、俺は素直に差し出すんだろうか。それとも、知らない間に取られているのかもしれない。そうなった時は知りたくない。  「......やっぱいいや」  いつの間にか、腰に添えられていた手を振り払って立ち上がる。京の鳩が豆鉄砲を食ったような顔に、愛想笑いを返す。  お風呂には、入る気分になれなくて、寝室のだだっ広いベッドに、雪崩込むように倒れる。体全身から疲労感を感じる。特に、精神面は寝たからと言って治ることはない。  苦手だからこの家には入れたくないと、初めから言えばよかった。京に引かれようが、可哀想だと言われようが、これだけは自分を優先すれば良かった。  溶岩のように湧き上がる後悔に、頭を手でぐちゃぐちゃにする。髪が何本か手の間からすり抜けたが、気にしなかった。それでも、落ち着こうと深呼吸をするが、焼け石に水だった。

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