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第51話
小さい子供が泣いている。
ボサボサの黒髪に、あちこち啜りきれた服、それから真っ赤に腫れた頬を膝小僧に擦りつけている。
誰も守ってくれる人がいないと、必死に自分で自分を守るように、小さな三角座りがだだっ広い大きな家の戸の前で場違いに座っていた。
門が開く。少し躊躇ったような白く綺麗な手がその子に向かって伸びた。
「僕の部屋にいこ?」
黒髪の少年は塞ぎ込んでいた頭を腕から少し離し、隙間からその手を見る。それからもう少しだけ視線を上げ、差し出した手の主を見ると興味を失ったようにまた頭を下ろした。
「おい、洋、そんなやつほっとけって。ほら、こっち来い。俺が遊んでやる」
家の中から大きな怒鳴り声に近い声が聞こえて、三角座りの少年が一瞬肩を震わせる。
一方、綺麗な手の子は、その手に比例する端正な顔を輝かせて、「うん!」と元気よく返事をした。
「お兄ちゃん、最近遊んでくれなかったから寂しかったんだよ」
ぽそりとその子は、怒鳴り声の主に向かってつぶやく。
それから綺麗な手の綺麗な子は、汚い黒髪の男の子のことなど忘れたかのように軽やかに走っていく。
綺麗な子は少しだけ振り向いた。
「またね」
はにかむような笑顔は、蹲った少年に一欠片も映ることは無かった。
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