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第54話
祭りの人並みから外れた、辺鄙な道。もう少し歩けば森の中に入るような閑散とした場所。ここは花火が綺麗に見える穴場らしい。去年に京が見つけたんだそうだ。京と二人、傍にあった大きな杉の下にゆっくり座る。ひんやり冷たい。
「どうぞ、りんご飴」
「ありがとう」
2つあるうちのちっちゃい方のりんご飴を受け取る。口1つ分ぐらいの大きさで、珍しさにぐるっと回す。舐めてみると、 固くて食べきれるか心配になる。ずっと舐めてたら舌が切れそうだ。
「灰人、りんご飴は齧るもんだよ。舐める人もいるかもしんないけど、それじゃ食べ終わんないよ」
「飴は舐めるって決めてるんだけど」
まぁ、ちっちゃい頃は滅多にないお菓子が勿体なくて、飴に限らずクッキーとかも口の中で溶かしてたのが癖になっただけだが。
「いや、それ中身は本物のりんごで外に飴コーティングしてるだけだからね」
「へぇー」
新発見だ。人齧りしてみると、確かにりんごが出てきた。飴は歯にくっついて少し食べにくい。
四苦八苦していると、隣で京がりんご飴を大きく齧る。
「灰人、あげる」
そう言って顔の下から覗き込んできた京が、口移しでりんご飴を移す。この夏休みでスキンシップには慣れたと思っていたのに、不意打ちに驚いて手元のりんご飴を落としてしまう。
「……あ」
咄嗟にひろいあげるも、土やら小さなはっぱがあちこちついている。3秒ルールだ、いける。
「こら、灰人、待ってそれ食べちゃだめ」
口に含もうとすると、ひょいっと手元から棒を奪われる。食べれるだろ、と取り返そうとするも背が高くて届かない。
「そんなにこれ気に入った?ほんとごめん、ほら、俺のあげるから」
首を横に振る。落ちて汚くなっても、京から貰った方のりんご飴が欲しい。それに、京のりんご飴を取るなんて嫌だ。
「わかったわかった。洗ってくるから」
嫌な顔ひとつしないで、めんどくさい俺と付き合ってくれる。決して見捨てない。それが高良京という男だ。
夏休み中考えないようにしていた。
3ヶ月までもう半分を切ってしまった。夏休みが終わり、文化祭が終わればちょうど3ヶ月ぐらい。
なにを喚こうが俺は用済みなのだ。
だったら最後ぐらい「好き」を伝えてもいいんじゃないか。実は心の片隅で、この人は本気で俺のことを好きなんじゃないかって思う時がある。
でも本当は分かっている。きっとみんなそう思っていたんだろうって。京に好きと伝えたら終わる恋に、自分は当てはまらないだろうって。
「灰人もくる?」
いつもなら迷いなく頷く問いに、首を横に振った。別れはもう、すぐそこまで迫っていた。
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