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兄弟どっちも離れ離れ!?やっぱり俺達は禁断の兄弟関係だから-3

「すごい広い」 「俺もまだ行ったことない場所いっぱいあるし」 「校舎きれーだね」 「部分的にすごい古くさいのもあるけど」 「トモ、サークルは? 何か入ってないの?」 「入んない。なるべく無駄なお金は使わない」 「へ、へぇ~……バスケは? バスケもやめたの?」 「ん、今のところは。バイトもしたいし。お前が来年から▲▲行くこと考えたら、ちょっとでもいいから貯金してイイ感じに遣り繰りしなきゃなー」 「まだ決まってないけど……落ちるかもだけど……」 「え? うそでしょ? 今からもう弱気?」 「うううう」 「あれ、トモくん?」 連休中でも学生の行き来がちらほらあるキャンパス、きょろきょろな弟を連れて適当に案内していた智章は振り返った。 同じセミナーをとっている顔見知りの女子と、その友達が数人いた。 ぎこちなく掲示板前へと移動した星哉は、約二ヶ月前まで高校生だったとは思えない大人びた容姿の彼女達と自然に会話を交わす兄の背中を見、ちょっとばっかし胸をモヤモヤさせた。 まだ四月に入学したばっかだけど、トモ、ちゃっかり彼女つくってたりなんかして。 トモって明るいし、男友達だって多かったし、おれに対してはちょこちょこ意地悪だけど基本みんなに優しいし、もう誰かに告られて、ノリで付き合ってたりして。 「おまたせ」 「っ……もう飽きた、疲れた、おなかへった、何か食べたい」 「あらら。星哉ちゃん、ご機嫌斜めでちゅか」 「それむかつくやめろっっ」 「あのコ達の中に俺の彼女でもいると思った?」 智章は明後日の方向を向いていた星哉の顔を不意に覗き込んだ。 「今日ウチに呼んでる」 「は……っ?」 「俺の恋人」 ガーーーーーーーン。 路地裏にあるこぢんまりした洋食屋に案内された星哉だが、始終上の空、エビフライつきふわふわオムライスもろくに味わえずに半分近く残してしまった。 「ウチ、こっち」 トモのばか、ばか、ばーか、しね。 「おいってば、そっちじゃないって」 「ッ……早く言えっっ」 「こわ。激おこ星哉、こわ」 「うるさいっっ」 大学から徒歩十五分、近辺には商店街や郵便局やドラッグストアにコンビニもある、利便性に優れたエリアに智章の暮らすアパートはあった。 築五年の二階建てアパートの一階。 智章自身が気にしなかったのでオートロックなしの物件となっていた。 「えーと、鍵は、っと」 ドアの前で立ち止まってショルダーバッグからキーホルダーにつけた鍵を取り出し、ロックを外す、何てこたぁない智章の仕草に不覚にも星哉はときめいた。 同時に、一人暮らしをしているんだなぁ、と、しみじみ再認識した。 ずっと同じ家で暮らしてきた兄が離れて行ったことへの淋しさを改めて痛感する。 彼女お招き発言もあって、どんどん遠ざかっていく気がして、今現在隣にいるというのに心細くなってしまう。 はぁ、重症。 でも仕方ない。 おれとトモは兄弟なんだから。 彼女いたとしても、兄弟一緒に住むのには問題ないだろーし、ちょっとでも家賃とか生活費減らして、おとーさんおかーさんの負担軽くしなきゃ。 彼女がお泊まりのときは、おれが友達のウチに避難すればいっか……。 と、友達ちゃんとできるかなぁ……。 てかさ、どんなコが来るんだろ? 「おじゃましまーす……」 星哉は気を取り直して兄の部屋に上がった。 これといったこだわりもなさそうな、極々ありふれた、シンプルな内装のワンルーム。 それでも一人暮らしのお宅が物珍しい弟は、さっきまでのご機嫌斜めぶりはどこへやら、目を輝かせて室内を見回した。 「へぇ~~~思ってたより広い、くんくん、変な匂いもしない」 「変な匂いって」 「あ、なにこのモニター、へ~~、オートロックじゃないくせモニターホンはついてんだ~~、がちゃ、げっ、冷蔵庫なんも入ってないよトモ? 牛乳しかないじゃん? 泥棒入られたんじゃ?」 「元々入れてないし。冷蔵庫の中身盗む泥棒なんて今時いないって」 「へぇ~~、ふ~~ん、へぇ~~」 あ、そういえば彼女っていつ来るんだろ? 「トモ、トモの彼女、いつ来るの?」 「もう来てる」 「えっっっ?」 「もういる」 「えっ? えっ? あ、おふろっ? シャワー浴びてんのっ? えっ、弟来るのにシャワーとか、そのコどーいう神経してんの? えろいコなの?」 ちなみに現在、浴室にはひとっこ一人だっていなかった。 「ほら、俺の恋人」 急に智章にぐいっと引き寄せられて驚いた星哉の目の前にはスタンドミラーがあった。 「俺のお気に入り」 壁際に設置されたスタンドミラーを前にして、棒立ちになった星哉をやんわりバックハグし、その耳元で囁きかける。 「俺の好きな弟の星哉」

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