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俺を呼び止めたのは新しく入った派遣のBちゃんだった。 どうしてBちゃんなのかと言うと、嘉月曰く……まぁ辞めたGさんと同じ理由で女性陣にそう呼ばれているそうだ、陰で。 「今、帰りですか? よかったら……本当突然なんですけど、ごはんとかどうですか?」 ははーん、俺はピーンときたね。 きっと嘉月のことを知りたいんだろう。 イケメンバイト君の情報を入手したく、本人に直行するのは時期尚早、とりあえず世話係の俺から話を聞き出したいんだな、うんうん。 まぁBちゃんかわいいし。 目的がどうであれ女の子と二人でごはんとか久々だし。 「うん、いいよ、どこにしようか」 ところがどっこい。 彼女は嘉月について何も触れず、華奢なグラスからオレンジピーチを美味しそうに飲んで、エビとアボガドのパスタをくるくる巻きながら、初めての就職に緊張しているとか、あそこの桜が綺麗だとか、そんな他愛もないおしゃべりをして。 「LINE教えてもらってもいいですか?」 そうしてほんわかほっこり別れた。 「遅かったですね、眞部さん」 帰宅してみれば自宅マンションの部屋前で嘉月がスマホをいじっていた……ほんわかほっこり気分は韋駄天並みにフェードアウトしました。 「えっなんでいんの!? 今日約束あったんじゃないのっ? てかメールも何も寄越してないよねっ?」 「早く開けてほしいんですけど」 こういう時の嘉月の敬語、怖い、まだ「は?」顔で舌打ちされる方がマシだ。 明らかに機嫌を損ねている仏頂面の嘉月、これ以上不機嫌にならないよう俺はこれまでにない俊敏さでドアのロックを外してバイト君を部屋へ招き入れた。 スプリングコートを脱いで、一先ずトイレ行って、どう機嫌をとろうか悩みながら部屋へ戻ってみれば。 「今日は本当に突然だったのに、付き合ってくれてありがとうございました」 「あ!!」 「ご馳走してもらって、ありがとうございます!楽しかったです!」 「あわわ」 「これからも時々いっしょにごはんとか、いいですか?」 「ひぃ」 「よくねーよ、自分の胸見てもう一度出直してこい」 「うわー! やめてー!」 ありえない回答を打とうとした嘉月の手から俺は慌ててコートのポケットに入れていたはずのスマホを奪取した、うわッ、<よくねーよ、自分の胸見てもういち>まで打ってる! 怖い怖い! 「ふぅふぅ、か、嘉月、冗談にも程が、」 「眞部さん知ってる」 「えっ?」 「女の浮気定義に別の女と二人きりでごはん行くのも含まれる場合あるって」 「うっ」 「LINE交換も駄目なんて言う奴いるって」 「うぐっ」 「もしそんな女と付き合ってたら眞部さん今頃刺されてるね」 ……嘉月、今、刃物とか持ってないよな?

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