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見知らぬ人間が嘉月の傍らに立っていた。 高そうな洒落たスーツ、俺が普段着回してるのとは明らかに質が違う。 三十は過ぎていそうだ。 インテリっぽい。 これまた高そうな眼鏡が様になっていた。 「芦原さんも相変わらず若々しいですね」 嘉月、笑ってる。 ねぇねぇ、俺や係長に対する完全なめくさった日頃の態度と違くない? ていうかさ、いい加減俺に触れて! 隣にまで来た俺のことさすがに今は空気扱いしないで! これじゃあ不審者じゃん!? 「ダッシュって言ったよね、眞部さん」 やっと触れてくれたかと思えば、いやはや、手厳しい年下バイト君です。 芦原(あしはら)さんと呼ばれた彼は俺に会釈一つ寄越して、嘉月には意味深な微笑みを一つ、そうしてエスカレーターの方へ去って行った。 「元彼」 早ッッッ!!!! 「あ、あのなぁ、そういうのは一呼吸おいてからだな」 「知りたがってたくせ。顔に書いてあった」 ついつい両手で顔を隠したら嘉月はスマホをアウターのポケットに突っ込んで歩き出そうとした、芦原さんと同じ方向へ。 「待って、嘉月っ」 「は?」 「あっちから降りよ、エレベーター、そっち人多いし」 「芦原さんとまた鉢合わせしたくないから?」 バッチシ言い当てられて赤面した俺を嘉月は堂々と嘲笑う。 「一度くらい眞部さんみたいに感情に正直になってみたいですね」 ……フンだ! でも気になる点はまだありまして。 「あっ、あのさっ、嘉月……っ」 「んーーー……っ集中しろ、よ、ゲス犬っ……」 「ひど……っあの芦原さんって人……既婚者だよな、指輪してたもんな……?」 「……だから……?」 「っその……えーと……」 「いわゆる不倫の仲……でしたけど?」 このコってばいくらゲスとはいえゲス不倫まで!!!!

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