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路地裏に佇む隠れ家的ラグジュアリーなカフェバーに響き渡った似つかわしくない耳障りなノイズ。 「いい加減にしろーーーーっっ!!」 テーブル席やカウンターにいた客どころか目の前でシェイカーを振っていたマスターまでぎょっとしていた。 聞くに耐えないノイズを発したのは、ハイ、誰でもないこの俺です。 一つスツールを空けて座っていた嘉月と、その隣に座った芦原さん、二人の囁きにも近い会話を聞いていたら居ても立ってもいられなくなって……やっちまいました。 『付き合ってる? 彼と君が?』 『はい』 『だから? 何か支障があるのかな』 『俺、変わったんです、芦原さん』 『君は変われないと思うよ、嘉月君』 『そんなことないです』 『いいや、僕にはわかる。一途な君なんてまるで想像がつかない』 『そこまで言いますか』 『きっと彼のことも何食わぬ顔で裏切って新しい誰かを欲するに、』 『いい加減にしろーーーーっっ!!』 嘉月のこと何だと思ってるんだ。 そりゃあ確かにゲスだけど、昔なんか今以上のゲスっぷりだったみたいだけど!? ウチの職場では派遣のコとも関係しちゃってたけどさ!! 今は俺と付き合ってるもん!! 俺に一途だもん!! 「嘉月は変わったんだよ!!俺が変えたの!!それ以上嘉月のこと貶めたら……っ嘉月を貶めたら……っ」 続きが思いつかなかった俺。 モヒート、一口二口飲んだ程度だったけど、乱暴に取り出した財布から確認もしないでお札を何枚かカウンターに叩きつけ、さすがにポカンとしていた嘉月の腕をとって。 そのまま店を出た。 スプリングコート、ぐちゃぐちゃにして、もう片方の腕に引っ掛けて。 「あの人嘉月のこと本気で好きだったと思うよ」 路地裏なのにやたら人の行き来がある夜の通りを足早に突き進みながら俺はぽつりと言った。 「どーかな」 「いーや、絶対そうだよ、裏切ったとか、余っ程気持ちがなきゃあ、そんな強い負の感情感じないだろ?」 「……あんたほんとに眞部さん」 「なにそれ、どういう……あれ、あれっ、んんんんっ!?」 あることに気が付いた俺、立ち止まって財布の中をチェック、そして……ガーーーーン。 「に、二万いくらも置いてきちゃった……」 「は?」 「数えたらさっきまであった万札がない……俺と嘉月、一杯づつしか頼んでないし、ろくに飲んでもいなかったのに……も、戻っていくらか返してもらおっかな?」 「っち」 世にもしょーもない俺に嘉月は……それはそれはゆっくりもたれてきた。 「ラブホ代くらいなら奢ってあげます」

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