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「この後寄りたいトコあんだけど」
普段の金曜日と何一つ変わらなかった残業ありプレミアムフライデー。
定時に退社していた嘉月と待ち合わせして、居酒屋で晩ごはんを食べて、さぁこのまま俺のウチへウキウキるんるんっ……とこれまたいつもと変わらない週末コース直行だろうと勝手に思い込んでいた俺。
「寄りたいとこ? コンビニ? ドラッグストア?」
「とりあえず黙ってついてきてくれる、眞部さん」
「え……ここ? ほんとに?」
「ここ。ほんとに」
いつにもまして人の行き来がある飲み屋街から路地裏へ、あんまり馴染みがない雑然とした通りを勝手知ったる風に前進して嘉月が案内してくれた場所は。
地下クラブだった。
なんっか……どむどむって重低音聞こえてくるんですけど、入っていくコ達、明らかに年下なんですけど、あ、でもスーツ着た人も入ってったな、明らかにテンションあげあげ状態でしたけど。
狭い階段、両側の壁にはポスターが縦横無尽にべたべた、表からだと店内の様子は全くわからない。
一見さんからしてみれば京都のどこぞの料亭より入りづらい雰囲気じゃなかろーか。
「い……行きたくない」
「眞部さん、びびってる」
「うん……びびってる、だって一度もこんなとこ来たことないもん、俺」
「びびり眞部」
「嘉月は、なんでこんなとこ来たかったの」
「不慣れなトコにびびってるびびり眞部が見たかったから」
ゲス!! ゲーーース!!
「あと、友達いるから、ココ。バーテンやってる」
バーテンの友達……イケメンの気配しかしない……。
「とりあえず行こ」
「えええっ……やだ怖いっ……おじさん怖いっ」
「まだ二十八歳、まだおっさんじゃない年頃なんだろーが、来い」
「うわああああん」
思っていたよりも広いワンフロア。
とにかくうるさい。
耳がおばかになるよぉ。
テクノっていうんだっけ、ハウスっていうんだっけ、骨太サウンドがめちゃくちゃ腹と頭にどむどむ響くよぉ。
ほんとにみんな踊ってるし、ほんとに正真正銘パリピの群れだし、ほんとに天井にミラーボールあるし、ほんとにDJいるし。
「眞部さん、こっち」
とてもじゃないけど普段の距離だと会話は成立せず、目を回しそうになっている俺の耳元で嘉月はそう言って、人波を掻き分けてダンスフロアの壁際にあるカウンターへ連れてってくれた。
『一杯目込み入場料はおごってあげます』
慣れた感じだったな、嘉月。
メンバーズカードまで持ってたし。
「眞部さん、どーする、ビールでいい」
そういえば嘉月の友達がバーテンダーやってるって……え゛っっっ、この人? 俺より絶対年上じゃっ? ていうかおじいさんっ……ハゲワシっ……魔術師みたいっ……機嫌損ねたら呪われるやつじゃっ……。
「眞部さん、ちなみにだけど」
「あ、あの、嘉月の上司をしております、眞部と、」
「俺の友達、そっちじゃなくて、こっち」
想像以上に年上のお友達に恐る恐る名刺を渡そうとしていた俺は、白髪長髪でウェイター姿の超個性的バーテンダーから慌てて視線を変えた。
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