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あんまりにも超個性的バーテンダーが視界に鮮烈で気づかなかった。
カウンターの向こうにもう一人、シェイカーを振っているスタッフがいた。
ぱっと見、男か女か迷った、でも数秒間まじまじと眺めている内に男だとわかった。
黒髪にスレンダー体型で中性的なルックス。
七分袖の白い襟シャツにネイビーのボトムス、上から下までシンプル過ぎて超個性的バーテンダーとの差がすごい。
「なるみ、この人、職場の上司の眞部さん。オーダーはビールとカンパリオレンジ」
嘉月が俺の紹介がてらお酒の注文をするとほんのり微笑を浮かべて頷き、こっちには軽い会釈をしてきた、なるみ君。
え、このコほんとに嘉月の友達?
まだこっちのバーテンダーの長老みたいな人の方が納得するっていうか。
すごくお行儀よさそうなコだ。
カフェとかお花屋の店員みたい。
もしも妹かお姉さんがいたら確実に清楚系美人っぽい、あ、お母さんなんてそりゃあもう、
「う゛っっ」
なるみ君を繁々と観察していたら脇腹に強烈な肘鉄を食らった、誰がお見舞いしてきたのかは言うまでもない。
「見過ぎ」
俺の女王様、無表情でおかんむり、肘鉄だけじゃあ気が済まなかったのかオトナっぽい黒のビットローファー爪先で俺の脛を蹴ってきました。
「こらっ、スーツ汚れるっ」
「初クラブ、俺の友達ガン見できるくらいの余裕はあるみたいですね」
ライダースジャケットにキレイ目ニット、ピタピタ黒スキニー、あ、これで出社して仕事してましたよ、女王様、百合のモチーフつきリングしたままキーボード打ってましたよ、絶対打ちにくいハズなんですけどねー。
「嘉月は、ココ、今でも入り浸ってたり?」
「は? 聞こえねー」
「うう……っ嘉月は! ココに! 今でも入り浸ってたり!?」
「耳元でうるさい」
女王様ほんっとむつかしいわっっ。
「来たのは久々」
「クラブなんて、いつ頃から通うようになったんだよ?」
「高校卒業する辺り」
この非行少年めっっ。
「じゃあ、お前、その頃から飲酒とか……?」
「ありがと、なるみ」
なるみ君からグラスを二つ受け取った嘉月、俺の質問は華麗にスルーされるのかと思いきや。
「俺の初めてのお酒は二十歳の誕生日に眞部さんが選んでくれたコレですけど」
ビールを差し出し、手にしたままのカンパリオレンジのグラスにちゅっとキスした嘉月……なにやだこのコ、えろかわいいにも程がありますよ、神様。
「未成年のくせクラブ通いして酒飲むような非行少年扱いしましたよね、今」
「う」
「謝れ」
「う、疑ってごめんなさい」
「もっと」
「うう、すみません、許してください」
「これだから眞部は」
完っ全ばかにされてますけど。
他のみんなが大勢いる中で、肩寄せ合って、至近距離の会話ができるって……うん、控え目に言って最高かもしれない。
最初はおっかなかったけど、ただうるさかった大音量の音楽にも慣れてきて、初クラブ楽しめそうかもな~なんて調子こいていた矢先に。
「あっち行ってくる」
「えっ? あっちって、なに、嘉月躍んの!?」
「せっかく来たし。眞部さんは。どーする」
「むりむりむりむり、踊れるわっきゃない、むり」
「じゃあ待ってれば」
嘉月の奴、俺を置いてパリピだらけのキラキラダンスフロアに飛び込んでいった。
おいてけぼり食らってしょ気ていたら、カウンターの内側から声をかけてきたバーテンダーの長老……ではなくて。
「眞部さん、今日は当店に来てくれてありがとうございます」
それまで黙々とお酒をつくっていたなるみ君に話しかけられた。
初対面なのか知り合いなのかわからない人達同士が同じカウンターで盛り上がっていて心細かった俺、前のめり気味になって嘉月の友達にこれ幸いにと縋りついた。
「なるみ君は嘉月といつ知り合ったの!?」
「嘉月とは高校生のときに出会いました。挨拶が遅れてすみません、どうもはじめまして」
第一印象通り、ちゃんとしてるなぁ、なるみ君。
優等生タイプっていうか。
そんで声がよく通る、爆音だらけで隣に座ってた嘉月と話すのも一苦労だったっていうのに、なるみ君の声は聞き取りやすい、職場なだけあって慣れてるんだろうな。
高校時代の嘉月、か。
飲酒していなかったとはいえ、クラブ行ったりして、早熟な奴め。
そ、その頃から女王様気質なエロゲス男子高校生だったのかな!?
「嘉月から誰かをちゃんと紹介されたのは初めてです」
ゲスな想像にどぎまぎしながらビールをグビグビ飲んでいた俺は、はたと喉を休めた。
なるみ君は正しく理想通りの綺麗な笑顔を浮かべていた。
「眞部さん、嘉月に信頼されてるんですね」
なるみ君が手にしていた色鮮やかなリキュールの瓶が花束に見えるような、ああ、酔ってるんだな、俺、いや違うな、舞い上がってる、このまま天国に行けそうなくらい心浮かれてる。
「すみません、隣、いいですか」
おっと、隣に誰か来た、さっきまでの俺なら「つ、連れがいるので、シュミマセンッ」と思いっきりきょどっていたに違いない、でもあの嘉月の信頼を得ている俺は! 一味違う! このたった数秒の間に生まれ変わったんだ!
「どどど、どうぞっ」
心の中では大きく出ながらも口の方は下から姿勢がまんま出た。
しかも、さ。
「ああ、やっぱり貴方でしたか」
声をかけてきたまさかの相手にぎょっとした。
「あ、芦原さん……」
動揺しまくりな俺に、嘉月の元彼、かつて不倫の仲にあったという芦原さんは何ともシニカルな笑みを浮かべた。
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