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「気分転換にたまに来るんです。会社や家庭とは雰囲気がまるで違う場所へ。羽休めといったところでしょうか。あ、グラスが空になってますね。オススメの一杯があるので是非ご馳走させて下さい。先日、眞部さんから多く頂き過ぎましたから……ね」
一杯目に次いで、またしてもおごってもらった二杯目。
「アウトソーシング事業を中心とする弊社に高校行事のインターンシップとしてやってきたのが嘉月君でした」
不慣れな緊張感を紛らわせるため俺はグビグビグビグビ飲んだ。
「指導役にあたったのが僕でした。物覚えがよくて、飲み込みが早くて。お世辞抜きに優秀でしたね」
芦原さんはテキーラベースのカクテルをタバコ片手に一口一口味わって飲んでいたグビ。
「人としての基本マナーに関しては未熟の一言に尽きましたが」
高そうな洒落たスーツに眼鏡、相変わらずインテリ然とした雰囲気をプンプンさせているグビ。
「二年生でしたから、多少、大目には見てあげましたよ」
てことは、だ。
高校二年生の嘉月と職場体験で出会って、グビグビ、そこで……こっそりナイショの関係にグビ?
「その頃からよからぬ征服欲を掻き立てられていましたね」
せいふく……制服……グビグビ……だよな、高校生なんだから、嘉月、制服着てたよなぁグビグビ。
「芦原さん」
「ああ、嘉月君の友達の前で失礼でしたね。君に咎められたら後々怖い」
「……眞部さん、大丈夫ですか? 急に俯かれて、具合悪いんですか?」
制服……うぃ~……嘉月の制服姿……見たいっ……学ランかな、ブレザーかな、セーラー服かな……って、嘉月男やないかいっっ。
「お水飲まれますか?」
「ほへっっ」
ほんの束の間伏せていた顔を上げたら、わざわざカウンターの向こう側からやってきたなるみ君が細長いグラスを掲げて真横に立っていた。
「やっ、やっ、優しぃぃぃっ、なるみ君お花屋さんやればいいのにっ」
「ふふ。それ、よく言われます」
「ほっ? なるみ君、シャツ、なんかついてない? まっしろだから汚れたら目立っちゃうよね、あれっ、とれないっ?」
「お水置いておきますね」
白いシャツの背中側、なんか染みになってたような、気のせいかな、グビグビグビグビ。
「眞部さん、そちらはお水じゃない方です、ペースを考えて飲まれた方が」
「ふへっ? だってこれ紅茶でしょ!?」
速やかにカウンターの内側に戻ったなるみ君は困ったように芦原さんを見、芦原さんは肩まで震わせて笑いながら言ったグビ。
「ロングアイランドアイスティーはれっきとしたお酒です」
…………グビ。
「眞部さん、貴方ってやっぱり純粋な人ですね」
「グビ、グビ、グビ」
「今なら引っ掻き傷程度で済みますよ。重傷を負う前に、もっと自分自身に相応しいお相手を見つけて、極々ありふれていそうで実は尊い幸せを手にされた方が身のためかと」
「っ……あのですねぇ、芦原さん……っっっ」
「またお説教ですか?」
「か、か、嘉月っ……高校生の嘉月っ、どんなでした!!??」
「……どんな、と言うと」
「い、い、今よりエロいんですかっ!? ゲスいんですかっ!?」
「……」
「高校生の頃からエロゲスな女王様ですか!!??」
「…………」
「あの、眞部さん」
「あーーーいいないいなーーー!! 俺も高校生の嘉月見たかったよーーー!! 基本マナー底辺レベルの高校生嘉月に職場体験どきどき指導したかったーーーー!!!!」
「音よりうるさ、駄犬眞部の鳴き声」
ぐるりん振り返れば。
キラキラ光るダンスフロアを背にして俺のこと底抜けにバカにしているときのツラした嘉月がいたグビ。
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