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その日以来、講義を終えると楓の木の下で合流し、敏彦の家に向かうようになった。
肌を重ねている間はいい。でも、終わった後に急激な寂しさが込み上げてくる。
そのことが、俊平には堪らなく辛い。
それでも、この関係をやめる気にはなれなかった。
別れの日が近づくにしたがって、お互いの口数が徐々に減り始める。
本当は毎日でも会いたくて、傍にいたい。でも、俊平は下宿させてもらっている身分だ。
家の手伝いもしなければならず、会えるのは週に二回ほどだった。
季節の移り変わりを示すように、楓の葉が赤く色づく。
気がつけば、葉が散ってしまっていた。
――とうとう今日で最後の日だ。
自分の心のように空っぽになった姿を、俊平は見上げていた。
「すまない。待たせたかな」
黒の釣り鐘マントを羽織った敏彦が、声をかけて近づいてくる。
俊平は思わず駆け出し、しがみつきたくなる気持ちを抑え込む。
握りしめた拳が微かに震える。
「そんな顔するな。僕の門出を祝ってはくれないのか?」
敏彦は無事に大学を卒業した。これで、すぐにでも郷に帰省しなければならない。
「……おめでとうございます」
俊平は少し固めの口調で祝辞を述べると、丁寧に頭を下げる。
「ありがとう。さぁ、行こう」
敏彦に促されるように、俊平は顔をあげると敏彦の家へと足を向けた。
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