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第6話

その後、妹との電話を終えた樋口は、 「見舞いには来ない、ってあっさり言ったよ。心配もしてくれてるけど、やっぱり面倒なのもあるんじゃないかな?」 なんて笑って誤魔化していたけど。 本当は樋口の元へ妹が来たがっているのは、はっきりと分かった。それをあんなに厳しく断ったのは……。 (妹さんに来て欲しくないのは、婚活うんぬんだけじゃなく、自分の存在も大きいのかな?) 仕事場の人間には、地元の友達、なんて敏樹のことを紹介したのだから。身内の人間が敏樹を見れば「あんな人知りません」となり、さらに怪しまれる。 それになにより、敏樹自身が樋口の妹とばったり会ったら? どんな会話をすれば良いのか。妹の望みである樋口の結婚の妨げとなっているのも、敏樹の存在があるからだし。 敏樹の事ばかり思いやって、妹を自分の周囲に寄せ付けないようにしているのか? でも……、 敏樹は樋口の家族なんかじゃあない。 過度に婚活を嫌がるのも、見舞いを跳ね除けるのも、樋口が同性愛者だと知らない家族からすると謎だろう。これで樋口と家族との仲が険悪になったら? 敏樹はずっと樋口の傍に居たいけど。そのわがままから、樋口の傍に敏樹以外の人間が居なくなったら? 職場の人達に怪しまれたり、家族との喧嘩が続いて疎遠になったり。 (そしたら、自分ひとりで樋口さんを支えられるか?) 心の中の自分からの質問に、敏樹は首を横に降る。敏樹は派遣のWEBデザイナーで、年収だって決まってないのだし。 もしも今回の事故で、樋口が仕事を続けられない程の怪我を負っていたら? それでも敏樹は樋口の傍に居たいけれど。樋口の生活を助けたいけれど。そんな事が出来るのかは分からない。 そうして、その後一週間ほど、敏樹は樋口の見舞いには行かなかった。

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