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奏は奏
目を覚ますと隣には誰も居なかった
「……奏?」
トットットットッ、ガチャ
「お、千聖、おはよ。起きれそ?」
「え、あ、」
ぐっと力を入れると鈍い痛みはあるが何とか起きれそうだった
「あ。大丈夫。」
「ん。なら良かった。朝ごはんできとーよ」
「あ、うん。」
ニコッと奏が笑う。とても……綺麗に
ん?何か変だ。
別にあんなことあったのに普通とか、
そういう事じゃない。
そんな事言ったら昨日とかもう何だよ!って感じだし。
何か…………奏が変?な、うーん。……うーん。
「千聖?どげんかした?」
動かない俺を怪訝に思ったのか奏がそばまで来て顔を覗き込ん出来た、目が合って、また奏が綺麗に笑った…………。
無意識に手を伸ばして頬に添える
「ん?千聖?」
「…………。奏、何かあったの?」
「え、」
「辛いことでもあった?」
「な、何、言っとーと、」
「奏。おいで」
そっと腕を開く。
………………………………。
暫く動かなかった奏が吸い込まれるように胸に擦り寄ってきた。
よしよしと頭を撫でてやる
「…………何か変やったん?」
「うん。」
「……どこ?完璧やったんに。」
「んー。」
「え、分からん感じ?」
「奏は隠すのが上手いね。笑顔が綺麗だし、
でも、ちゃんと言っていいんだよ
俺は奏を否定しないよ」
「っ…………なんっで?」
前に母さんが言ってた。
『よか?千聖。他人を見るには自分から見やんよ?取り繕ーて傷つけても何もならん。
優しくなれなんて言わん。けど正直でおらんね。自分を曲げる事が必要な時はちゃんと後悔して。他人を守れんかった時は悔しさを忘れんで強くなり。皆、自分を隠すのが上手いから、人一倍、他人を見ていなさい』
俺は母さんみたいに強くなれずに、人の顔色ばっかり伺うようになってしまったし、自分の思ってることを正直に言えず何故か顔に出るようにもなった。あんまりいい事では無いし、母さんの、望んだ形とは違うと思う。
けど、それでも他人をちゃんと見てきた。
助けれるとか守れるとかそんな過剰な自信が、あるわけじゃないけど。
少なくとも俺は、きちんと俺を見てくれる人のおかげで、救われてきたから。
「奏が隠していたいなら言わなくてもいいよ
でも俺は奏を否定しない。奏は奏だから。」
よしよしと頭を撫でる
そういえば前に優斗にしたことあるけど
よくそんな恥ずかしいことできるなって言われたっけ。……まあ、奏は優斗みたいに振り払わないからいっか。
奏は何も言わずに、顔を上げた
苦しそうだったけど、言うつもりはないらしい。俺も深追いはしない。
それからリビングまで歩いて行った
歩く度に切れた所が擦れて痛かったけど
何とか歩けた。歩くって大変なんだな。
昨日はソファで食べたけど今日はダイニングテーブルで食べるらしい。
俺の椅子には厚めの柔らかいクッションがあって、やっぱり奏は優しいと思った。
テーブルの上にはご飯、ワカメと玉ねぎとじゃがいもの味噌汁、焼き鮭、厚焼き玉子、酢の物と、完璧な食事があって、元気のない奏にすごい!すごい!と子供の様に迫っていた。
「いただきます!」
「ん。どーぞ」
それから、ゆっくり話しながら食事をした
料理は小学校からしてたらしく、作れる料理を聞きながら、奏を凄いなぁとずっと褒めていた
お弁当も作ってくれたみたいで、カバンに入れてくれていた。
遠足前の子供みたいな気持ちでそれを見ていた
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