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綺麗事
朝、早くにベットを抜けて朝ごはんやお弁当を作っとった。昨日あんな事を思ったんに、また美味そうに食べてくれるんやと思うとワクワクする自分がいて。自己嫌悪に陥る。
奏、千聖が呼んでる気がして、速歩で寝室に行くと、千聖が目を開けていた。
数回会話を交わすけど、急に千聖は動かなくなって、何かうぬぬって感じだ。相変わらずわかりやすい。そばまで来て顔を覗き込みニコッと笑った。
千聖は手を伸ばして俺の頬に添えた
「…………。奏、何かあった?」
急に千聖が悲しそうな目をする
何で?
「辛いことでもあった?」
…………何で。
何もなかよ。そう言いたかったのに
喉が固まったみたいに音を発さない
「奏。おいで」
千聖が腕を開く。
こんなの信じたらいけんち、頭は思とるとに
体は千聖の方へ行く
体は正直ってこーゆーことなんや。
頭を撫でられて、ちょっと悔しくなった
けど嫌……ではなかった
「…………何か変やったん?」
「うん。」
「……どこ?完璧やったんに。」
「んー。」
「え、分からん感じ?」
「奏は隠すのが上手いね。笑顔が綺麗だし、
でも、ちゃんと言っていいんだよ
俺は奏を否定しないよ」
否定しない?
「っ…………なんっで?」
「奏が隠していたいなら言わなくてもいいよ
でも俺は奏を否定しない。奏は奏だから」
頭をまた撫でられる。なすがままやった。
同じ言葉が反響する
奏は奏
俺は俺
なら千聖は千聖で
他人は他人
でも、千聖。それは綺麗事ばい。
俺に興味があるんやない。中身がなんでも
それがあればいい
何も言わずに、顔を上げる
何も言うつもりはない。
理解して欲しかなんて思てない。
千聖もそれ以上聞かない。
ほらな?他人の心を知るなんて面倒で無意味やろ?
目に見える安心があればそれでいい。
いちいち心を知って、理由にするより
目に見える理由が多いならその方が早い。
皆そう思っとる。
「いただきます!」
「ん。どーぞ」
やっぱり、食べる時はよく笑うし、よく話す
どこかでこれ以上はと警戒音がなっているのに
どこかでは嬉しくなって自分の話を久しぶりにした。凄いな!と褒めてくれる千聖が眩しかった。いつものように軽く返事をすることは出来なかったばってん、それでも千聖は笑ってくれていて、心底安心した。
カバンのお弁当をキラキラした目で覗く千聖を見て、信じてしまいたくなる。
『俺』のしたことを喜んでくれているのだと
綺麗事でもいいなんて思ってしまう、
それは誰にも言えないけれど。
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