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月光

すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてきた 「……千聖?」 返事はなし。ほんとに寝たんや。 ちょっと、いや、かなりびっくり。 まさか一緒に寝れるとは思わんかった 千聖は寝ると、幼い印象がある。 今は月光だけが視覚情報の頼りだからやろうか、青っぽく柔らかい光を浴びる千聖は神秘的だ。 そっと目元を撫でる、 そこはまだ赤く、少し腫れている 少しずつ少しずつ近寄り、千聖にキスする そっと何度も。 ふにゃふにゃと笑う千聖。めっちゃ可愛ええ さらには俺のシャツをキュッと握って顔を胸に擦り寄せている。…………めっちゃ可愛ええ 体をピッタリくっつけて千聖の頭を撫でる。 …………。これが純粋に愛するということなのかもしれない もう、愛し方なんて忘れてもたと思とった。 人は醜く、残酷なんだと。 そう思えば楽なのに。 信じたなら、期待したなら、裏切られたり傷つく覚悟がいるのに。 『目……よく……さぁ?ねぇ…………ははは!』 またあの記憶 千聖を抱きしめる 千聖だってきっと…………。くそっ! 人を真っ直ぐその人として見てくれる人なんてほんまにおるんやろか 誰だって、考え方も感じ方も違うとか言う割に一定を好む。 同じ服を着て、同じ言葉を話して、同じ所にいる。まとまりを決めて一緒に行動している 多数派は正義で、少数派は排除される それが分かるから誰もが合わせる術を学ぶ 人は醜く、残酷だ 人は心だと言う割に、誰も心なんか見てない 認められるべきとみんな言うばってん……。 誰も認めようとしない。 心なんて何の足しにもならん。 俺を気遣って痛いのを我慢し声を抑える姿、 俺の料理を食べた時の笑顔、 カフェラテを飲んで心底楽しそうに話す声 そんな千聖が浮かんできて泣きそうになる 「千聖。俺がこんなんやのーても同じこと言ってくれると?」 「そんなわけないやん」 それは空気を揺らしただけの独白だった。 千聖から離れて間を空ける 千聖は掴んでいたものと体を安定させとった ものを失のうて、少し顔を歪めたが、すぐに布団を代わりにして規則的な寝息をたてはじめた 誰も。『俺』を必要となんてしない。 神秘的な月光も少数派から見たら 薄暗い不気味な光だ 他の明かりがあるならいらない光だ

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