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重なる

下駄箱を見るとまだ奏の靴はあった。 てっきり帰ったと思ってたから少しびっくりして、立ち止まる んー。どうすればいい? とりあえず教室戻る? いや、でも戻んないよな、ふつうは。 探しに行く? でも奏の行きそうな場所知らないし。 ここで待っとく? いや!でも来るかわかんないし。 ぐるぐると同じ考えが回って奏の靴を見たまま動けなくなる。 「……千聖?なんしょーと?」 「…………奏?」 一体どれくらい考えていたのかは分からないが下駄箱の端の方に奏が立っていた。 あれ?俺奏に何て言おうとしてたんだっけ!? あ、やばい。そこを考えてから探すべきだった またもぐるぐる考えていると、奏の方から話しかけてきた。 「……千聖、俺は千聖が好きって言うた。」 「俺も奏を好きって言ったよ。」 辛くなる。お互い好きだと言ったのに。 「俺のどこが好きなん!? 俺千聖に酷いことしかしてない!! それとも何!? ………………千聖まで顔とか金とかいうん?」 顔とか金? え、どーゆー事?まさか奏、俺が顔とか金で奏を好きだと思ってるのか? 見たことないイラつきと寂しさとが混ざったような奏の顔がそれが事実なんだと教えていた 「……奏を好きになったのは。 最初あった時、教室まで話したでしょ? 自分でもびっくりするくらい話しやすくて、初対面であんなに話したのは初めてで興味持った。」 「そんなん誰だって」 「それからレイプされて、怖いとしか思えなかったけど。水を飲ませてくれるのも食事の前に嫌いなもの聞いてくれるのも、運ぶ時に気遣ってくれるのもほんとに心から酷いことするやつなんじゃないって思った」 「………………」 「いつ好きになったかなんて分かんないし、 はっきりした理由は言えない。 けど、顔やお金で奏を好きになったんじゃないよ」 「……でも」 「それに好きになったから、奏の顔だって好きだよ。優しい目も笑顔も、寂しそうにしてる時も、怒ってる時も、…………きっとこれからもっと好きになるよ。 奏を好きになった理由でも好きな理由でもなくて、奏だから好きなんだよ。 それじゃ、だめ?」 「……ダメじゃない。けど 千聖、俺はまだ千聖の好きを信じられない部分があるし、もしかしたら千聖を傷つけるかもしらん。それでもいいん?」 そっと奏に抱きしめられて、あの時の温もりと重なる。心が混じり合うってこんな感じなんだろうか。背中に手を回して、制服を掴む。 目頭が熱くなって奏の胸に押し当てる 「ズッ …………いいよ。俺が奏を好きなのは変わんないし。」 「じゃあ、信じさせてよ。千聖」 何に怯えてるの?どうして信じられないの? いっぱい聞きたいことはあるけど 今はこれで充分幸せだから 「「好き」」 今、重なる。

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