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涙
意識を持ったと分かった時、身体中を何が行き渡った。目は涙の膜で開かず、ビリビリと少しずつ光を捉えた。喉は焼いたように熱く、「あ」と発したはずの声はただ重く喉を打っただけだった。そして何より、意識してしまったら後ろのそこが痛い。少し力を入れれば耐え難い痛みと苦痛が襲ってくる。せっかく開いたはずの目にも再び涙が溜まり始めた。
……なんで?…………なんで。
月明かりに照らされて、痛みに襲われ、涙を流さねばいけないほど、俺は何か悪かったのだろうか?
「っ、クフ、フっ、うっ」
ガチャと言う音と共に、おぼんに水のペットボトルとコップを乗せて奏が入ってきた
「っ!!」
「……千聖?起きたん?」
痛みを超えて体が反応する
いやだ!来ないで!…………声にはならなかった
「…………千聖。」
身体は震え、涙も止まることなく流れていく
そんな俺を見て、奏はおぼんをサイドテーブルに起き、そっとベットに乗って俺を抱きしめた
「っ!!ぁ、ぃっ、ゃ…………ぃっ!!!」
抱きしめられた時左手で腰を持たれたせいでとてつもない痛みが走る。のに、右手は俺の目元を拭い、頭を撫で、俺の顔を奏の胸にゆるりと押し付けた。
「…………。」
「……千聖。………………ごめんな。」
許せないはずなのに。そんな言葉だけで片付けられないはずなのに。なのに、その言葉が今まで聞いた中で1番意味を持つ重いものに感じた。
同時に涙が出る。声も出ずに、涙だけが流れていく。さっきの痛みの反射とも恐怖とも違う涙が流れていく。
奏は何も言わずに頭を撫で、俺を抱きすくめていた。その手があまりにも優しくて、奏があまりにも暖かくて、俺はただ顔を埋め奏の胸元を濡らすだけだった。
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