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全然違う

奏は、暫くして落ち着いてきた俺をまた抱き上げてソファーまで連れていった。 「薬塗ろ。」 ソファーの前のガラステーブルには救急箱にティッシュ、タオルに服まで揃えられていて、奏は案外几帳面なのかな?とおもった。 けど今はそれどころじゃない。 「……自分でやる。大丈夫だから。」 「……千聖、本気で、怒るで?」 ……また!?しかも本気が付いた。 「……大丈夫だ、んっ!?んんッ、ぱあっあっ、んっ、んんー、」 大丈夫だよと言いかけて途端に口を塞がれた。つまり奏にキスされた。ねっとり口の中を確認するようなキスに手は奏を押し返すけれども弱く、嬉しいとさえ思ってしまう。 「はぁ、はっ、あっ、」 ツッーと糸が切れて、奏が綺麗に唇を舐めた。 「千聖、大丈夫やないなら大丈夫やないって言って。会いたいなら会いたいって言って。つかんでよか嘘はつくな。千聖のこと好きやけん、言って貰える方が嬉しか。もちろん分かっとるよ?心配ばかけたくないとか嫌われたくないとかで嘘ばついてくれよるとやろうけど、そんなんいらん。 お願い、千聖。ホントの事ば言って?大切やけん。好きやけん、心配させて?嫌いになったりせん。お願いやけん。」 「……うっ……だって……ガッカリされると思った。うぇ、ずっ、アイツらが奏がガッカリするって。……うっ、……ぐす、襲われてるのに感じてる変態なんて捨てるって。」 ずっと頭から離れなかった。 奏が俺を捨てる、嫌いになる。 何よりも怖い事。 「うぇぇっ、、くっ、俺男だし奏なら女なんていくらでも……って。…… 違うって、そんなことないっ、っ、うっ、そんなわけないって言えなかった。ごめん奏。ごめんなさい。」 ふわっと奏の匂いに包まれて余計に泣けてきた。 「なーんで謝るん?千聖なーんも悪くないやん。俺の方がごめんなぁ。助けにいけんくて、辛かったなぁ、痛かったなぁ、苦しかったなぁ。ごめんなぁ、千聖。 でもな?俺は誰よりも千聖が好きやで?女やないとかそんなんどげんでんよか。千聖やから好きや。」 それから奏は薬を塗ってくれて、パジャマを着せてくれた。奏がシャワーを浴びてる数分、まじで数分、俺はやっぱり泣いていた。 出てきた奏がベッドまで連れて行ってくれて2人で一緒に入る。奏が全身を包んでくれて俺も奏にできる限りくっ付いた。 「……奏、今日…………凄く、嫌だった。…………奏にも無理やりされた、こと、…………あるけど、全然、…………違ったんだ。……………………上手く言えないけど。」 「……うん。」 安心して、我慢していた気持ちが溢れてくる。 奏が頭を撫でてくれて背中をポンポンと叩いてくれる。 「…………嫌だった。奏と全然違う。………………」 奏の胸に顔を埋める。 「奏も汚しちゃってごめん。パーカーもダメにしちゃった。ごめん。」 「また卑下する。…………千聖は何も悪くない。汚れてもない。……ありがとな、俺を大切にしてくれて、ほんまにありがと。」 「……うんっ、グズ、うっ、……っ……」 暫く泣き続けていつの間にか眠ってしまった。けど頭を撫でる感触も、ポンポンと背中を叩くリズムも暫くは消えなかったことを俺の体は覚えていただろうか。

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