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負けるとか
連れてこられたのは体育館下の用具室
外を使う運動部の道具や運動会で使う得点板やテントなどが置いてあるところだ。
少し埃っぽくて、独特な匂いのする所で俺は伊織先輩にキスされていた。
何度も何度も、ゆっくりまるでアイスを溶かすように
「ちゅっ、っふ……、っぱ、いお先輩、も、痛っ、ぢゅ、」
溶かすようにと言ってもずっと舐められたり吸われ続けたら、そりゃ痛くもなる。
何となくヒリヒリしてきて、そろそろ呼吸も苦しい。
少し押してみてもビクともしない伊織先輩
伊織先輩は身長は高いし細身で優しそうな感じだけど、もやしっ子って訳でもなくて、やっぱり体格の差は歴然だった
くぬぬ。俺ももう少し高さがあれば……!
自分のステータスを恨んでいると、不意に伊織先輩が体を離した。
「……優斗君。いい?」
え?、いいって?いいって、なにが!?
そりゃ、そりゃ、おおおお、俺が誘っちゃったみたいになったけど
あれはただ、……ただ
「……負けたくなかった、から。オレは頼りないって言われてるみたいでそんなの……。」
「…………」
酸欠の頭はぐちゃぐちゃで、指を1本1本絡めあった手はしっとりと汗をかいていて、視界はどんどん歪んでいく
「ねぇ、負けるとかある?」
え、、?、
「負けるとかじゃないよね。きっと。
自分の頼って欲しいが歪んで迷惑かけて欲しいって思ってても、相手は大事だから迷惑かけたくないって思っちゃうもんなんじゃない?
迷惑かけてこないから頼ってないだなんて、そんなの相手の迷惑かけないようにっていう思いを踏みにじんだエゴだよ。
もちろん互いに信頼してるからそうなるんだろうけど………。
負けるとかじゃないんだよ。
頼りがいがあったら頼っちゃう子なの?」
それは、違う。
千聖はいつだって1人で溜め込んでて、苦しくても1人で。だから
それがもどかしい。
こんなに近くにいるのに。
「俺はどうすればいい………」
「………1人で決断しないで。聞いてみな。きっと気持ちを決めつけられて、避けられるのは辛いんじゃないかな?」
絡まった指はいつの間にか解けていて、言葉を反芻しているうちに伊織先輩は居なくなっていた。
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