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第8話
そっと、玄関で靴を脱ぎ何か声がする方へ引き寄せられる如く向かって行く。
すると、声が漏れていたのは僕と先輩の寝室からだった。
部屋から聞こえてきたのはー…
『ぁっ…ッア!弓月いぃ!ひゃぁ!んやぁ』
『鈴ッ、締め付け、過ぎだってば…ッぁ』
「ー…ッ!」
明らかな、恋人の僕以外との性行為。
身体からザッと血が引くのがわかった。
ガクガク足が震えて上手く息が吸えない。
『浮気』
ああ…これが浮気なんだ。
僕は捨てられるのかな?
涙が僕の視界をぼやけさせて前がよく見えない。
今はその方が良いのかもしれないけど。
兎に角、僕は少しでも早くこの地獄のような場所から出なくてはいけない。
買って来た物を持ったまま玄関を出て、何処へ向かっているのか自分でもわからないままがむしゃらに走った。
「ひっく…ぅ…っふ、な、んでぇ先輩…ッ」
涙が止まらなくて、泣きながら走っていたら人気のない公園まで来てしまった。
フラフラとベンチに近寄り、行儀が悪いけどベンチの上で体育座りをする。
いくら泣き虫な僕でも他人に泣いているところを見られたくはなかった。
人気がないから、見られることなんてないと思うけど。
胸が苦しくて、痛くて、黒い思いが僕の心を占める。
なんで、どうして、
僕じゃやっぱりダメだったんだあなんて、
ボロボロ落ち続ける涙をぼんやり見ながら他人事のように思う。
「ふぇえっ…ぅああ…せ、んぱいぃっ…ぐゔぅっ、ぁああ!」
なんで、なんで
僕じゃ駄目だったんですか?
こんなに好きなのに
誰にも負けないくらい好きなのに…!
「そんなに泣いたら目、腫れちゃいますよ」
「ふ、ぇっ、ぐ…だぁれ…?」
突然声が聞こえた。
顔を上げると、いつの間にか僕の前に中学生くらいの男の子が立っていたー…
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