6 / 82

第6話

「それで根暗くんの正体は?」 「……なんだその根暗くんって」 「えっ、いや…はははっ」 言えない、自己紹介していた時…俺は全く聞いていなかったなんて… ただ周りがうるさいなくらいにしか思っていなかった。 目を逸らし誤魔化していると根暗くん?はため息を吐いた。 根暗と呼ばれていい気分になる奴なんていないからな。 聞いていなかったけど頑張れば思い出せるかもと思い、乱れた制服を直す根暗くん?を見つめる。 さっきから前に何処かで会ったような事を言う…会っただろうか記憶にない。 見覚えがあるが、会ったのか見かけただけなのか俺にも分からない。 黒髪のかつらを頭に被せて櫛で慣らしていた。 …やっぱりその姿になるのか、かつらって面倒じゃないか? 折り畳みの鏡を見て金髪が見えないように調整している徹底っぷりだ。 「お前、俺の自己紹介聞いてなかったんだな」 「…わ、悪い」 「一度しか言わねぇからよく聞いとけよ」 根暗に戻った姿の根暗くん?は俺を見てニヤリと笑った。 前髪の隙間から覗く碧眼が俺を見ていてよく分からないけど、背筋がゾクッとした。 俺に近付きネクタイを引っ張られ、半立ちになる。 息が掛かるほど至近距離でお互い見つめ合う。 またキスしてしまうのか、心の何処かで期待している自分がいる。 自分が今どんな顔をしているか分からないが根暗くんは俺の耳元で甘く囁いた。 「河原(かわはら)飛鳥(あすか)、覚えとけよ淫乱」 「…っ」 一言一言に重みを感じて腰が痺れて動かない。 必殺エロボイスに固まる俺をニヤッと笑い離れた。 …河原飛鳥、全く知らない…聞いた事もねぇ…誰だ? というか淫乱ってなんだ!?…俺は女じゃない! 河原は呆然と見る俺を置いて部屋を出ようとした時、一度こちらを振り向いて言った。 その瞳はイタズラをする子供のようにキラキラした笑顔を向けていた。 「俺の正体が知りたかったら自分で探すんだな、まぁ本名は明かしてないから名前で検索しても出ねぇけど…」 それだけ言って空き教室から出ていき、一人だけ空き教室に残された。 謎が深まるばかりだ、これこそ謎の転校生だろうな。 チャイムが鳴り響きそういえば今何時だ?とズボンのポケットの中にあるスマホを探す。 時刻を見て顔が青くなり空き教室から慌てて飛び出した。 もう授業終わりじゃねーか!!午後の授業サボってしまった。 今まであまり真面目とはいかなかったが授業はサボった事なかったのに…最悪だ。 ーーー 「午後いなかったけどどうしたの?」 「えっ、あはは!ちょっと…ね」 「どうせ紫乃の写真でも売ってて遅れたんだろ!出せ!」 「…違う違う、紫乃の写真は始に渡したので最後だよ」 歩きながらキレる始に何も持ってないと手を振りアピールする。 言えない、エロい事してたなんて言えない。 始が怒っているのは全て俺が原因ではない…ちょっとはあるけど… 俺が教室に向かったら既に皆それぞれ帰ろうと動いていた。 授業が終わったんだ、当たり前で俺も自分の席に向かい帰宅の準備をした。 すると俺を置いてってムカつく事に何事もないようにカバンを持ち帰ろうとしている河原がいた。 一言くらい言う権利はある筈だ、当たり前だ! 口を開いた時、河原が教室の入り口ではなく紫乃の前で足を止めた。 紫乃は驚いて河原を見ていて始が慌てて紫乃のところに向かおうとしていた。 周りも転校生の行動が気になるのか見守っている。 「今朝はごめんな、痛くなかったか?」 その悲しげに呟かれた言葉に一番驚いたのは俺でもクラスの奴らでもない…紫乃だった。 俺との約束を守り、ちゃんと謝ってくれた。 可愛いところあんじゃんと二人を見ていた。 そして河原は紫乃の前に跪き、手にキスをした。 王子のような行動に周りにいる誰もが固まった。 頬が赤くなる奴もいて俺はソイツを見て苦笑いした。 始も固まっていたがなんとか足を動かし、二人の間に割って入った。 ライバル登場で焦っているのか河原を睨みつつ冷や汗を流している。 紫乃の頬も周りにいる奴同様赤くなっているからだろうか。 河原はいきなり始がやって来ても全く驚きもせず冷静に始を見ていた。 誰かが「修羅場?」と呟いていた、紫乃と始の関係はクラスメイトならだいたい知ってる。 今まで紫乃に好意を寄せる相手は何人かいたが紫乃は興味がなく、始もここまで割り込まず紫乃とラブラブアピールをして相手を諦めさせてきた。 しかしなんか河原は普通の人とは違うと始は感じているのだろう。 根暗で顔なんてろくに見えないのに何故か河原は無条件で人を引き寄せる力がある。 だから今朝あんな暴言吐いたのに、河原に好意を寄せて頬を赤らめる男がいる。 河原の行動が気になり帰る事も忘れて見てしまう周りがいる。 だから始も焦っている、紫乃が取られると…

ともだちにシェアしよう!