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第7話

「て、めぇ…紫乃に何しやがる!」 「…何って、謝っただけだろ」 「謝るのにキスは必要ねぇだろ!!」 「キスって、ただ手にちょっとしただけじゃねーか」 河原は面倒くさそうに始を見ていた、河原には他意はないみたいだが始に疑われている。 始が掴み掛かろうとして紫乃に腕を掴まれ止められた。 そして何の騒ぎかと担任までやって来てしまい、その中の中心人物に河原がいる事に気付いた担任は顔を青くして周りに早く帰るように言い河原を壊れ物を扱うように話をしていて河原はとても嫌そうな顔をした。 そういえばVIPなんだっけと河原を見つめていたら、ふと俺と一瞬だけ目が合った。 何だか助けを求められているような、そんな不思議な気分になった。 ……なんでだろう、知り合ったばかりなのに…そんな筈ないのに…可笑しいな…俺。 担任に連れられ河原は教室を出ていき、周りも何事もなかったかのように帰る者や部活に行く者で忙しくなった。 始は緊張してたのか床に座り込みため息を吐いた。 俺は始達に近付き一緒に帰ろうと手を伸ばした。 三人共放課後は忙しいが帰れる日が合えばよく一緒に帰っている。 俺達は寮で暮らしている、全寮制ではないから実家通いの奴もいるが俺達は実家から電車に乗ってやって来ているから寮の方が通うのが楽で寮生活をしている。 同じ理由の奴や一人暮らしに憧れている奴など理由は様々だ。 個室が与えられていて部屋は一人暮らしには十分な広さで風呂もトイレも完備されていて実家通いの奴によく羨ましがられる。 外装はちょっと古い洋館みたいな見た目だが中身は最近改装したばかりでとても綺麗だ。 「大丈夫だから、僕は始一筋だよ」と言って居るが始は聞かずずっと気を付けろとばかり言っている。 河原は紫乃が好きなのだろうか、そんな素振りには見えなかったけどな……よく分かんない。 特に河原は本当に不思議ちゃんレベルで行動が意味不明だ。 俺へのキスにも意味はないんだろうけどなんかモヤモヤする。 まぁ河原は実家通いっぽいから考えるのは明日にして始の背中を叩いた。 「今日は始の部屋で皆で騒ごうぜ!」 「はぁ!?なんで俺の部屋なんだよ!」 始は怒って俺を追いかけ回すから全力で逃げる。 運動神経には自信はないが逃げ足だけは早いんだよ。 俺達が走り出したから紫乃が慌てて追いかける。 さっきまでピリピリしていた始は少し顔の筋肉が緩みマシな顔になった。 寮に着きまだ言う始を無視して始の部屋で騒ぐ事を決めて「また後でな」と言いロビーで別れた。 フッ、俺に感謝しろよ始…俺は今日始の部屋には行かない。 紫乃と二人っきりにするためにちょっと小芝居をした。 普通に二人だけで話せと言っても始は紫乃にカッコ悪いところを見せたと会わないだろう、紫乃も会いに行く勇気がないだろう。 だから俺という第三者が割り込む事により二人は変に緊張しないと思った。 数時間したら「悪い、行けなくなった」とメールを送り完璧だ。 他人の恋愛は興味がないが友人達なら応援したいと思うのは普通の事だろ? ついでに始は童貞捨ててこい…その前に処女がなくなるかもしれないけどな。 俺は恋愛とか考えていない、また嫌な思いしたくないし…そもそも好きな人なんていないし、男子校だと出会いがなくていい。 ……入学当時は全然そんな事を考えてなかったが今思えば良かったと思っている。 共学だとまた誰かを好きになりフラれる恐怖に怯えなくてはならなくなる。 蓋を開けたら男子校でも何人かカップルはいた。 でも俺には関係ないと客観的に見ているから平気だ。 今でもそれは変わらない、河原が来るまでは俺がそんな対象にされた事はなかった。 河原にされ、俺は快楽に弱くキスが好きなんだと気付いたが別に河原が好きなわけではない。 イケメンだが男だし…俺より身長が高く意地悪で俺様な男、好きになる要素が一つもない。 まぁ意外と約束は守るんだなとそこは感心した…紫乃にキスはする必要あったのかと疑問だが… 河原だってゲイではなさそうだった、紫乃にキスをした時俺にキスした時のあの熱っぽい瞳ではなくただ唇を押し当てたように見えたし、周りの好意の反応に無関心だった。 なんで俺だけにあんな顔をするんだ?自信過剰ではなく、純粋に疑問だ。 他の奴より喧嘩腰で突っかかったから嫌われてるとか? そこで合わなかったピースが嵌まったようにスッキリして手を叩いた。 なるほど、嫌いだからあんな嫌がらせをしていたわけか…そう思うと嫌な奴だなと思い始めた。 嫌がらせのためだけに俺はアイツにキスされ触られたのか、腹が立つ。 やるなら正々堂々勝負しろ!殴り合いで勝てる気はしないが拳で語り合い友情が芽生えるもんだろ。 席が隣だし俺としてはあまりギスギスしながら一年間隣で過ごしたくないから友人になるか無関心になるかどっちかにしてほしい。 「三条優紀くん、だよね」 「…はい?」 なんかまだ自分の部屋に帰る気がしなくてロビーのベンチに座り考え事をしていたら、声を掛けられそちらを見る。 そこにいたのは寮の管理人の若い男だった。 あまり生徒に声を掛ける管理人ではなく、名前も入寮の時一度だけ聞いただけだから忘れた。 何の用だろうか、管理人が声を掛けるなんて… 「君の部屋の事なんだけどね、今日から二人部屋になる事が決まったから」 「……は?」 「今日決まった事だから急で悪いね、君なら適任だと担任の先生から言われてるから…他に空きはないんだ」 用件だけ言い管理人は管理人室に向かって歩き出した。 いきなり二人部屋って…適任ってなにが?俺なら受け入れると? 快適な一人部屋が崩れていく、始と紫乃の恋仲どころじゃない! いきなりプライベートに他人が入ってくるのはとても嫌で急いで部屋に向かって走る。 もう誰かいるのだろうか、担任が決めたならさっき言ってくれれば良かったのに… 途中から寮に入る奴もいる、家の都合とか…でも満室だったら学園側が断る筈なんだけどな…断れない理由があるのか? 三階の自分の部屋の前に立つ、ドアに耳を当てるが人がいる気配はない。 息が切れて苦しい、全速力だったからな…なんとか落ち着こうと深呼吸する。 表札はまだ俺のしかない、誰が同室者か分からない。 カバンから鍵を取り出し、差し込む…カチャと音がして緊張が走る。 どんな奴が同室者なんだ?先輩だったらちょっと困るかも… ドアを開けて部屋に入ると暗闇の部屋が広がった。

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