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第8話

※河原飛鳥視点 生まれた時から運命は決まっていた。 両親は大手芸能事務所の社長、姉はハリウッド女優…従兄弟も祖父母でさえテレビ関係の仕事をしていた。 そこで生まれた俺は0歳の頃から芸能人だった。 まだ物心がつく前で正直覚えていないがCMとかに出ていたらしい。 赤ん坊にしては珍しく駄々をこねない大人しくてハーフの両親の血を受け継ぎ可愛らしい金髪の赤ん坊だと大人達は可愛がった。 結局人形みたいに手間が掛からない子供が好まれる。 10歳離れた姉からそんな赤ん坊だったと聞かされて不思議と何も思わなかった。 周りにも両親でさえも何の感情もなく、執着がなかった。 本当に人形みたいに空っぽなのかもしれない。 小学校に上がる頃には子役としてテレビに引っ張りだこで勉強と仕事で忙しく友達なんていなかった。 周りは芸能人として俺を見る、誰も俺自身を見ない……両親も必要なのはテレビに映る俺だけ… もし俺がただの一般人になったら両親はどういう顔をするだろうか、ずっと考えて笑っていた。 失望する?でもそれで両親の操り人形から解放されるならそれもいい。 姉はいつも辞めたいと溢していた。 弱い人だから、心が… だから俺は姉が楽になるように姉のぶんまで頑張った。 姉は唯一俺を芸能人ではなく河原飛鳥として見てくれるから… そんな姉も向こうの国で一般男性と結婚して子育てをしながらハリウッド映画とかに出ている。 もう昔の辞めたいと辛い顔をしている姉ではない、何だか今の人生が楽しそうだった。 恋をしたから、変わったと姉はテレビのインタビューで答えていたのをボーッと眺めていた。 恋をしたら変われる?俺も?でも誰とすればいいんだ? そこら辺の適当な女と付き合えばいいのか?分からない。 言い寄ってくる女は沢山いる、でも何も感じない…友人を自称する男もクラスメイトに沢山いる、鬱陶しいと思うが本音なんて言えない。 ……俺は一般人ではない、芸能人…テレビのイメージを崩さず気持ち悪い仮面を付けて愛想よく笑う。 でも、それももう疲れた。 「辞めたい?」 「…うん」 事務所の社長室に入り机に向かい仕事をしていた父にそう告げる。 俺に芸能人を辞める度胸なんてない、芸能人を辞めたら居場所がなくなるから… 姉のように芸能人を辞めても帰る家があるわけではない。 家でも仕事でも良い子の仮面を付けなくてはならないなら一つだけ、素になれる場所がほしい。 それは学校だった。 もう高一の後半だし、馴染めるか分からないが俺を知らない奴らが沢山いる場所がいい。 とはいえ、有名になりすぎてしまったから変装して名前も本名を名乗れば誰も俺だと気付かない。 赤ん坊の頃からずっと芸能人の時は緋色(ひいろ)と名乗っていた。 それは河原一族全員偽名を使っているから… 別に本名を名乗って不都合があるわけではない、ただ暗黙の了解だ。 だから緋色が河原飛鳥だと誰も思わないだろう、公表している両親の名も偽名だから… 勿論それはテレビに出た時のみで学校関係者や役所なんかは当たり前だが本名を知っている。 ただ一般人は誰も知らない、偽名なのは知っているが… 「本当に辞めるのか」 「うん、それで新しい学校なんだけど…ここに行きたいんだ」 俺は父の机に学校のパンフレットを広げた。 今の学校より偏差値は低いが、男子校で花に欠けるが…一番魅力を惹かれたものがあった。 それは寮だった。 息苦しい家から出れる、とても嬉しかった。 父は今の芸能人が多く通う学校ではなく、一般人だらけの学校に不安らしい…それに寮だから自分の目に届かないと心配している。 俺はもう決めたんだ、行くよ…何を言われても… 社長室から出て、そのまま事務所を後にした。 帽子にサングラスにマスクと怪しい変装をするがどれか欠けるだけで俺だと分かってしまうから仕方ない。 好奇な目に晒されるがいつもの事だから我慢する。 駅前を歩くと音楽が聞こえた。 俺のよく知る音楽だ。 下を向いていた顔を上げると、ビルに設置されている大画面の液晶に写し出されるこの前やった音楽番組の映像が流れていた。 三人組の男達がダンスを踊り歌を歌っている。 人々は足を止め、液晶画面に取り憑かれたように見つめていた。 女子高生達がはしゃぐ声を遠くで聞き歩き出した。 真ん中で歌う金髪の男の笑顔に吐き気がする。 あれは俺じゃない、仮面を被ったなにかだ。 今はドラマや映画にたまに出るが本業はアイドル歌手だ。 STAR RAIN…俺が所属しているグループの名前だ。 数々のアイドル達が生まれているこの世の中でトップになったグループがSTAR RAINだ。 芸能人の中でも憧れる者や嫉妬する者など沢山いる。 そりゃあ結成僅か一年でトップになればそうなるか。 とはいえあまりそういうのに興味がなくてオリコン一位おめでとうとか言われても関心がなかった(でも仮面の俺は無理矢理笑顔を作る) 駅前は人が多すぎる、早く移動しようと歩いていた時…誰かに肩がぶつかった。 「いってぇ…」 痛みは大した事なかったが、不機嫌に舌打ちする。

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