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第10話

ペットボトルの水を口移しで飲ませるともっととねだるように俺の舌に絡み付いてくる。 それが何だか可愛くてずっとこうしていたいと思っていた。 しかしそれは俺のスマホの着信音で終わった。 良いところだったのにと舌打ちしてスマホの画面を見たらマネージャーの名前があった。 面倒だが、無視すると更に面倒になるな。 もう男はすっかり顔色が良くなった気がする。 「後は自分で飲めるだろ」 本当は全部飲ませたかったがそう言うと男は頷いた。 もう一度会ったらそれは運命、だから電話番号は交換しないでおこう。 マスクを直しトイレを出てマネージャーの電話に出た。 事務所に来いと言われたから向かう。 事務所の会議室にはマネージャーが紙袋を持って待っていた。 気弱そうだが怒るとめちゃくちゃ怖いマネージャーが笑顔だ………何したっけ俺。 「今日は休みじゃなかったっけ?」 「さっき社長から電話がありまして、緋色さんが一般の学校に通うから変装グッズを買ってこいと言われまして」 「……それがこれ?」 「はい!」 紙袋を漁り中身を見る。 中にはもっさいかつらが入っていた。 ……え?何これ、俺が被るの? 確かに変装とは言ったが、こんなオタクみたいな変装しなきゃならないのか? マネージャーによると髪も青い瞳も隠せるから一石二鳥だと熱弁している。 蒸れそうだな…とはため息を吐く。 父にはわがままを聞いてもらってるんだ、これ以上わがままを言うわけにはいかない。 かつらを被りマネージャーに鏡を貸してもらい整えてみた。 「どう?俺に見えない?」 「そうですねー、ちょっといじめられる体質の子に見えます」 マジかよ…学校に行ったら堂々とした態度で行こう、それで群れるのが嫌いだから一人でいた方がいい。 そして寮に空きがないらしく、誰かと同室にならなくてはならないらしく絶望した。 正体バレるじゃねーか、どうするんだ…誰と同室になるか俺が決めていいらしく保留にしといた。 …なるべく他人に無関心な奴を同室にしよう、それがいい。 家より寮の方がマシだから寮を諦めない…あの学校にした意味がなくなるからな。 そして気になる事が一つあった。 前の学校では両親が校長に「大切な息子だから特別に扱うように」と言ったらしく、教師達が媚を売り気持ち悪かった。 もしかしたらまたそんな事はないだろうなとマネージャーを見た。 「また前の学校みたいに両親がなにか言ったりしないよな」 「えっ!?…ま、まさか!ははははっ」 なんか胡散臭いが、まぁもしそうなったら校長に直接やめてくれと言うつもりだからどちらでも良いがな。 そして俺は男子校に転校して運命の出会いをした。 その胸の苦しみが恋だと気付くのはもう少し後の話。

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