12 / 82

第12話

「河原、やって」 河原の首元に腕を回して首を傾げる。 どうだ、俺がやると気持ち悪いだろ。 俺も気持ち悪いぞ。 もう二度とやれとか言わないようにとびっきり甘えてみた。 河原は固まった……そんなに気持ち悪かったか? 密着する胸から早くなる鼓動が伝わった。 河原どうした? 不思議に思い河原を見るが河原は目を逸らして俺から離れる。 「お前がそこまで言うなら仕方ねぇなぁ…」 棒読みの河原はテーブルに置いていたスマホを取り、操作する。 ちょっと耳が赤いな…もしかしてあんな事言ってて実は甘えられるのに慣れてないのか。 河原の意外な弱点を知りニヤニヤと笑う。 それに気付いた河原は不機嫌な顔をしていた。 SNSのIDを交換してもう一つの開けられてない段ボールが気になった。 開けてある方のは服や日用品を入れているみたいだった。 「河原、もう一つの段ボールって…」 「あ?…あー、仕事の道具とか入ってるから勝手に開けるなよ」 仕事、それって芸能人のか? 何の芸能人か分からないが大変そうだな。 俺みたいに趣味でバイトしてるような感じには見えないしな。 河原に寮案内した方がいいよな、校内案内は断られてしまったけど… 壁に掛けてある時計を見ると夕飯時にはちょうどいい。 河原も欠伸はしてるがもう寝る気はなかった。 「河原、もし良かったら寮案内しようか?」 「…何だよいきなりしおらしくなって」 「お前が上から目線とか言ったんだろ」 もう忘れたのか「そうだっけ」とすっとぼける。 ちょっとあの時傷付いたんだぞ、上から目線とか言われた事なかったし… 河原はズボンのポケットにスマホを入れてリビングを出た。 リビングから玄関に向かう河原を見て河原はこちらを見た。 「早く来いよ、案内してくれんじゃねーのか?」と言われ部屋を出る河原に慌てて着いていく。 言われなきゃ分かんねーだろ。 「ここが大浴場でここが娯楽室」 「かつらのままで入れないから大浴場に来る事ねぇな」 「そうなのか?結構広いぞ…他人と一緒に風呂に入るからよく裸見られるのがちょっと嫌だけどな」 「………」 河原は微妙な顔をして俺を見る。 そりゃあ男が男の裸見てなにが楽しいんだって思うよ、しかしここは特殊だからな。 河原もいずれ分かるだろうな…男同士のカップルが意外とこの学校に多いって事が… 誰でもキスする無節操な河原くんにはあまり関係ないかもなとトゲのある事を考える。 河原は大浴場を睨んでいた。 「お前は大浴場禁止な」 「は?なんでだよ、別に禁止されるような事してねぇだろ」 「うるせぇな、もし行ったらお前を素っ裸の状態で外に出して鍵を掛ける」 河原が恐ろしい事を言い、本当にやりそうな目をしていたから素直に頷いた。 河原は大浴場になにか嫌な思い出でもあるのか?まぁ、あんな綺麗な顔してれば変質者とか寄ってきそうだな。 顔が良いって大変だな、と他人事のように思っていた。 さてと、そろそろ食堂に行くか。 自炊する奴もいるが、だいたい面倒で食堂を利用する者が多い。 そしてこの時間は夕飯時のピークを外れているから空いている。 河原を食堂に案内する。 食堂は食券を自販機で買いカウンターに食券を持っていくとその食券の料理が出てくる。 河原は食券の自販機を初めて見たような顔をして目を丸くしながら見つめていた。 最近あまり見かけないけど蕎麦屋とか牛丼屋とかまだ食券の自販機が置いてるところがあると思うけど… あー、そういえばここ金持ちばっかりの学校だったな。 だいたいレストランだもんな、食券なんて知らないか。 河原にやり方を教えて自分の食券を買う。 今日はカツ丼の気分! 「次は河原だ、そんな緊張するなよ」 「……」 河原は何故かカチコチに固まりながら金を入れてボタンを押す。 まぁ普通に食券が出てくるだけだけど、河原はそれを見ながら目をキラキラさせていた。 そのくらいで…とは思うが金持ちにとっては普段はお手伝いさんとかいるんだろうし、自分でこういう手間をするのは嬉しいのかもな。 ……それにしても感動しすぎだろう。 自販機の前にずっと立つと後がつっかえるから河原を引っ張りカウンターに向かう。 河原は蕎麦を頼み、出て来てまた感動。 コイツ、もしかして山の中に住んでたんじゃないかと思ったりしつつ空いてるテーブルに着く。 「いただきます!」 「…いただきます」 うん、やっぱりカツ丼はいいな…美味しい! 食事を進めて、そういえば河原に聞きたい事があったんだと思い出した。 河原はなんでそんな格好をしているんだとか…言いたくないなら無理には聞かないが、気になった。 ジッと河原を見ると河原は箸を止めて俺を見た。 「欲しいのか?」と聞いてきたから首を横に振った。 …そうじゃないんだよな。

ともだちにシェアしよう!