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第17話
「今日はちょっと帰りが遅くなるから」
「そっか、俺も学校終わったらバイトだから」
また紅茶を飲む。
喉を使う仕事、芸能人ならだいたいそうだからいまいちまだ河原が何の芸能人か分からないけどまぁこれから長い付き合いになるわけだし少しずつ知っていけばいい。
そういえば河原はVIP待遇なんだっけ、担任が言ってたな。
もしかして河原は校長の身内とか?あの、禿げたおっさんと河原が結び付かないな。
俺の視線に気付いた河原は不思議そうに見ていた。
外人と日本人のハーフと言われた方が納得する。
初対面の頃とは違い裸の付き合いをした仲だ、気軽に聞ける。
……これがもし、重い過去持ちだったから物凄く気まずいな。
「河原ってVIP待遇だけど校長の身内かなにかなのか?」
「……はぁ、やっぱりここでもか…身内じゃねぇ赤の他人だ、ただ両親が過保護で校長に頼んだんだろ、全部知ってもお前だけは態度変えるなよ」
本当に疲れたような顔で河原は言ってくるから頷いた。
河原が誰でも変わらないけど、いろいろと大変なんだな。
紅茶を飲み終わり今度は俺が片付けると河原のカップも持ち台所に向かう。
ほとんど食堂で食べてるからあまり台所に立たないから新鮮だった。
まだ俺は寝間着だからさっさと制服に着替えようと食器を片し自室に向かった。
クローゼットに向かい、黒い制服を取り出し着替える。
そして机にずっと置いていたスマホに目がいった。
着信を知らせるランプが点滅していて画面をスライドさせて見る。
いつも朝に来る紫乃からのモーニングコールは鳴らすだけが目的なので折り返し電話しなくていいだろう。
そしてもう一つ、珍しい人物からの電話が来ていてこちらはすぐに電話しないと後で文句言いそうだから電話した。
数秒待ち声が聞こえた。
『遅い!また遅くまでバイトしてたの!?』
「…悪いって、ちょっと夜更かししてただけだって」
『へぇー、珍しい…お兄ちゃんがお金以外で時間掛けるなんて、さてはお金を数えてたのね!』
本人が目の前にいるわけじゃないのにビシッと指を差された気分で、違うけど本当の事なんて言えるわけもなく笑うしかなかった。
双子の妹の三条萌 は実家の近くの公立高校に通っている。
大型の休み以外に実家に帰らないから春休みはちょっとバイトで忙しくてパスしたから正月以来だろう。
双子だけど俺にとっては可愛い妹、だから妹のためなら金は惜しまない!
始にシスコンと言われているが構わない、無駄な金だとは思ってないからな。
妹の笑顔が何よりの宝です。
そんな妹も俺の事を理解しているから電話がある時は決まって金を使うお願い事だ。
正月に妹にお年玉をあげた以来使ってないから何でもお願いしてくれ!
「萌、どうしたんだ?なにか悩み事?」
『うん!えっとね、友達と一緒にライブ行きたいんだけどなかなかチケット取れなくて』
「ライブか、有名な歌手だったら倍率高そうだからな」
『うん、STAR RAINのライブだから』
STAR RAINか…日本で一番入手困難なアイドルのチケットじゃないか。
誰が歌ってるのかとか興味ないが、前にライブのチケット販売所でバイトした時一瞬にしてSTAR RAINのチケットが完売したのを俺ともう一人のバイト経験者の先輩が開いた口が塞がらなかった。
妹がアイドルオタクなのは知ってたし、好きなアイドルのグッズは自分でバイトして買う事が緋色くんを応援するファンとして……なんとかかんとか言っていた、緋色って誰だか知らないがSTAR RAINのメンバーだろう。
しかし今回はさすがに自分じゃどうしようもなくて俺に相談したというわけか。
倍率は普通のアイドルより遥かに高いだろう、でもやらずに諦める事はしたくない。
妹のためだ、やろう!
妹の話によれば友達は二人らしい、一人でも難しいのに三人分か……ハードル上がったな。
「分かった、やってみるよ」
『お兄ちゃんありがとう!大好き!』
「俺も大好きだよ、じゃあまたな」
電話を切り、早速STAR RAINのライブのチケット情報を見る。
三人組の画像が載ってるがまじまじ見る事はなく、下のチケット予約のところを見る。
まだチケットの予約はしていない。
午前0時から一斉予約開始だ、今日は寝れる気がしない。
妹もとりあえず予約を試してみるみたいだがお互い取れなかった最悪の状況を考えてお詫びの品でも用意しとこうかな、アイツマカロン好きだし…
今はまだ出来ないからスマホをカバンに入れると扉の前に河原が居た事に今さら気付いた。
いつからいたんだ?全然気付かなかった。
「…今の電話」
「え?なんだ?」
「…………いや、何でもない」
そう言い河原は先に部屋を出ていった。
どうせ方向同じだし、一緒に行けば良いのにと思いながらのんびりと河原の後に続き部屋を出た。
なんか河原傷付いた顔してたけどまたやっちまったか?
河原は思った事を何でも言うタイプではないからいまいち分からない。
腰に負担掛けない動きをしつつ寮の廊下を歩くと、背中にバシッと強い衝撃を与えられた。
声にならない悲鳴を上げて倒れると背中を叩いた人物は慌てた顔をしていた。
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