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第19話
※河原飛鳥視点
ポップでリズミカルな音楽に乗せ、歌を歌う。
レコーディングだから目の前の観客を意識しなくていい。
ただ、マイク越しに聞いているであろう人達に歌う。
俺達の歌で一人でも心が救われますように…
なんてな、誰が聞いても文句がないように完璧に歌えばそれでいい。
曲が終わり、ホッと一息つくとガラスで区切られた別室から明るい声が聞こえた。
「お疲れ様、今日も最高だったよ」
「ありがとうございます、瀬名さん」
STAR RAINのマネージャーである平凡な顔の男の名は瀬名 弘樹 。
デビューしたての頃から共にSTAR RAINを育ててくれた俺達にとって兄のような存在だ。
まだ23と若いのにかなりのやり手だ、STAR RAINのマネージャーを務めているぐらいだから当たり前か。
そして最初にマネージャーに声を掛けた愛想笑いが得意な男は本郷 圭介 。
一番年上の高三でSTAR RAINのセクシー担当で人気がある男だ。
圭介がセクシーかどうかなんて知らないが胡散臭い笑い方をするのは分かる。
俺以上に何考えているか分からないだろう。
別室に皆で向かいマネージャーに飲み物を貰い口につけていた
「この後ダンスのレッスンとかキツすぎ、誰か代わりに行ってきてよ」
「ダメに決まってるだろ」
必殺技のうるうるおねだりポーズをマネージャーに即答で却下されて「これだから頭固いんだよ」とさっきとは真逆にマネージャーに睨む男は蓮田 幸人 。
STAR RAINの弟系可愛いキャラとして人気がある。
しかし幸人の本性を知る人物は絶対に身内に欲しくないと思うだろう。
幸人は大きな瞳で中性的で可愛い顔とは裏腹にかなり腹黒い。
今までぶりっ子しておねだりポーズをしていたら周りは幸人を甘やかしまくった。
その結果、自分は一番愛されて可愛いと自惚れている。
自分よりちやほやされるのが許せないという………面倒な性格だ。
STAR RAINを結成して間もない頃は自分より人気な俺にかなり対抗意識を燃やしていたが今は「緋色と僕はジャンルが違うから」という結論に落ち着いたそうだ。
マネージャーは最初は幸人を可愛い可愛いと可愛がっていたが幸人の本性を知り今は落ち着いたそうだ。
ちなみに俺と圭介は幸人の事可愛いと思った事は一度もないが、幸人が面倒くさいことになるから苦笑いで可愛い可愛い口先だけ言っていた。
三条のように可愛げがあったらいいんだけど、それは三条にしか出来ないからな。
アイツ今、何してるんだろう…三条……三条か。
「どうしたの?緋色くん」
「…えっ、あ…いや」
今朝の事を思い出し気分が落ち込んでいたら飲み物を持ったマネージャーが目の前に立っていた。
飲み物を受け取り、休憩スペースに向かいベンチに座る。
脳内には鮮明に記憶されている事があった。
その顔、その声が今も聞こえてくるような気がした。
ペットボトルを傾けると口の中に冷たい水が入り込む。
ペットボトルから口を離し息を吐き、椅子に置いていたタオルで汗を拭う。
『俺も大好きだよ、じゃあまたな』
昨日は俺だけを見ていた顔は何処か嬉しそうで、俺の下で可愛く鳴いていた口は電話口の誰か分からない相手に愛を囁いていた。
……三条は確かに昨日初めての行為だから襲われた経験はなさそうだ、だから男が好きなわけではないだろう。
ペットボトルを見つめると中に入っている水が揺れた。
ギュッと無意識にタオルを握りしめていた…自分がバカで、失笑しか出てこない。
……一気に昨日の熱が冷めた感じがした、何やってんだろ…俺。
小声で吐き捨てるように口にすると、圭介と幸人は俺を挟み覗き込み顔色を伺っていた。
「……恋人いるならそう言えよ、クソッ」
「恋人?スキャンダルとかダメだよー」
緩い圭介の話し方に「うるせぇ」と一言言った。
俺が男子校に通ってるのは家族とマネージャーしか知らない、だから二人は普通に俺の悩みの種は女だと思っている。
…女だったら孕ませれば楽なのに、いや…いろいろと問題か。
そういえばマネージャーにこの変なモヤモヤの気持ち聞こうとしたんだっけ。
マネージャーを見ると完成された曲を聞いて打ち合わせしていた。
…幸人は一つ下だし、聞くなら一つ年上の圭介か。
圭介は影で遊び人とか言われてるし、経験豊富そうだ。
「なぁ圭介…触れたいって思った相手に触れて、余計悪化したんだけど」
「……え?何のぶっちゃけ話?」
「キスして触れて、もっともっと触りたくなる…他人と話してるところを見ると腹立つんだ…なんか分からないがイライラする」
「…それ、誰がどう見ても恋してるじゃん」
こい?恋?俺が?三条を?好きな気持ち?これが?
した事ないがあまり良いもんじゃないな、恋って…
感情に振り回されてイライラして、三条が友人と話してるのを見ると首輪で繋いで俺から離れないようにしたい。
三条の泣き顔は好きだ、苦しそうな顔もいい……ただその原因は俺でなくては嫌だ。
俺だけを見ろ、よそ見するな……彼女?三条は俺に愛された方が幸せだろ?
落ち込んでたのがだんだんイライラに変わる。
「一般の学校に転校したんだっけ、凡人と同じ学校とか僕ならムリムリ!………ファンをゴミとしか思ってなかった緋色がねぇ」
「そう思ってたのはお前だろ幸人」
幸人は膨れた顔をしている、長くなるからほっとくか。
改めて俺が三条に抱いていた気持ちを考える。
アイツ、あんな淫乱な身体で女抱けんの?キスしただけでとろとろな顔をして……
反応からして童貞みたいだったけど、三条は抱くより抱かれる方が好きそうに見えた。
やっぱり俺しか三条を満足させられないだろ。
そう思うと重くなった心が軽くなりニッと笑った。
三条に彼女がいる?でも一緒に住んでるのは俺で三条を抱いたのも俺だけだ。
だったら俺のところに来るようにもっと三条を快楽で溺れさせればいい。
俺をずっと見ていた幸人はポカーンと口を開けていた。
「今の緋色、なんかエロい…圭介よりセクシー」
「………………えっ!?」
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