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第23話

あんなもの?話の流れからして始と紫乃の事か? サラダの袋を買い物かごに入れて「アイツの朝食これでいいだろ」と激辛ハバネロサンドイッチを見せる。 もう一つのトラウマを植え付ける気かよ、容赦ないな。 そっとハバネロサンドイッチを戻し、普通のサンドイッチを手に取る。 始と紫乃の出会いを聞いた事がなかった、俺と出会った頃はもう既に恋人同士だったし。 紫乃は可愛くて何度か紫乃のファンの男達に「早く別れろ」「紫乃に相応しくないんだよがり勉メガネ」と言われているところを目撃していた。 始も分かっているのか何も言い返せずに睨むだけだった。 その背中は何処か寂しそうだったのが印象的だった。 「始と紫乃の関係は正直興味なかったからよく分からないけど、お互い好き合って付き合ったと思うぞ」 「…でもあのメガネ、自分が女みたいにされるのが嫌で逃げてるんだろ?好きなら好きな奴の全部受け入れるもんだろ?」 飛鳥はあまり恋をした事ないのだろう、だからそう言える。 俺だって飛鳥を入れて二人しか付き合った事はないが、元カノと付き合っていた時だって好きでも全部受け入れる事は出来なかった。 香水はキツいし素顔が可愛いのにメイクで台無しだと思ったけど、嫌われたくなくて言わなかった。 飛鳥は誰にでも態度悪いし、人前で平気でセクハラしてくるから止めてほしい。 それは本人に言えるから抱え込まなくていい。 ……きっとそれが恋人なんだと思う、ストレス抱えて付き合っても幸せになれない。 「始と紫乃はまだ成長段階なんだよ、お互い言いたい事を言い合える砕けた関係になったらきっと変われる」 「…元カノにフラれて吐いたくせに俺に先輩面か?」 「……………もう忘れてくれ」 飛鳥にとんでもない弱味を握られたような気がして空笑いする。 早く買わないと始が腹を空かせてる、部屋の中を物色でもされたらたまったもんじゃない。 レジに向かおうとしたらコンビニの入り口でこちらを見て立っている人物がいた。 俺達の話を聞いていたのか近付くその瞳は潤んでいた。 目が腫れている、昨日泣いていたんだな…こんな顔初めて見た。 飛鳥は先に会計してくると買い物かごを俺から奪いレジに向かった。 「紫乃…」 「僕、始に嫌われちゃったのかな?」 紫乃の方に近付き弱気に呟く紫乃の頭を撫でた。 紫乃は笑ってる方が可愛い…始もそうだろう、だから早く解決しなきゃな。 二人は俺にとって唯一無二の友人なんだから… 場所を移動しようと、コンビニを出て近くにある紫乃をベンチに座らせた。 ベンチの横にある自販機でコーヒーとお茶を買う。 紫乃がコーヒーだ、見た目のわりに甘いものが苦手でコーヒーもブラックしか飲まない。 紫乃にコーヒーを渡すと「ありがとう」と言い紫乃の隣に座る。 「優紀くんと河原くんって付き合ってるんだよね」 「…んぐっ!!」 危うくお茶を吹き出すところだった、危ない危ない。 げほげほと噎せて紫乃が謝りながら背中を擦ってくれた。 紫乃がそう思っているのは知っているが、前だったらまだ好きと自覚していなかったから否定出来た。 …しかし、飛鳥を好きだと自覚した今…難しい。 正直まだ保留の段階だけど、紫乃から見たらそうなるのか? チラッとコンビニの入り口を見る、まだ飛鳥は来ていない。 紫乃に背中を撫でられだんだん落ち着いてきた。 「…うっ、ま…まぁ」 「この前の話からしてもうそういう経験したんだよね」 「………」 「優紀くんが突っ込まれる側みたいだったけど、河原くんに突っ込みたいとか思った事ない?」 お茶を床に落としてしまった、ペットボトルを買ったからちゃんと蓋をしていて中身は無事だったけど… 友達と下ネタの話はした事あるが、実体験だと話が別だ。 さらについ昨日の事を思い出してしまい恥ずかしくて顔を赤くする。 またコンビニに目を向ける、よしまだ会計中だ。 昨日は勘違いで飛鳥に突っ込むのかと思っていたが、突っ込みたいと思った事は正直なかった。 飛鳥とする前はキスをして欲情したが突っ込み突っ込まれなんて想像していなかった。 ……始と紫乃を見てたら男同士でも出来るんだとは分かっていたが、まさか自分がとは思わなかった。 そして悔しい事に飛鳥の言う通りだ、俺は飛鳥に抱かれる事が嬉しく興奮する事に気付いてしまった。 だから飛鳥が後悔していると思った時、あんなに傷付いたんだ。 紫乃が望んでる答えじゃないって分かってるけど、だけど…これが俺だから仕方ない。 俺と飛鳥もまだ恋愛初心者だ、これから二人で成長していきたいと思っている。 「女の子には勿論そういう感情はあるけど、飛鳥にはないな…俺は飛鳥になら何されてもいい、そう思ってる」 「…ぼ、くだって…始になら…うっく」 必死に声を振り絞りポロポロと泣く紫乃を抱き締めた。 二人ならきっと乗り越えていけるだろう、俺はそう信じている。

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