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第28話

※河原飛鳥視点 目を覚ますといつも暗闇が俺を包み込んだ。 多忙な両親と姉、家にはいつも一人だった。 俺も芸能界に入っていたが学校が優先だと土日しか仕事をしていなかった。 学校から帰ると明かりのない部屋に置かれた冷めた夕飯と無機質な置き手紙だけだった。 子供ながら寂しいと感じた事はあったが仕事で忙しい事は理解もしていた。 仕方ないと諦めて「電子レンジで温めて」という置き手紙を無視して夕飯のチャーハンを食べた。 …冷たくて美味しくないけど明日また仕事だからなにか食べなきゃと機械のように繰り返して口に運んだ。 こんな毎日に何の意味があるのだろうか。 同級生達とばか騒ぎして遊べない、寄ってくるのは欲望にまみれた奴ばかり… 身体全身が冷めていく、寒い寒い… 熱を求めるように手を伸ばした。 俺は、明るい部屋で家族と暖かいご飯を食べたいだけなのに…それすら望んではいけないのか? 手がなにかに触れて暖かくなる。 「あすか」 「……優紀」 目の前に優紀がいた、俺の手を握っている。 無意識に手を伸ばしていたのか。 暗い部屋は変わらないのに、あの場所とは違う…人の温もりがある。 優紀の肩に頭を乗せると何も言わず頭を撫でてきた。 今何時だろう、まだ夜か? 確認したいけど優紀から離れるとまた寒くなりそうだから我慢する。 「寝言で寒いって言ってたけど、もう一枚毛布用意するか?」 「…いや、いい…このままで十分暖かい」 「そうか」と優紀が呟き沈黙した。 今の俺は緋色じゃない、河原飛鳥なんだ…だから俺を欲望にまみれて見る奴なんていない…利益なんてないからな。 …もし、俺がアイドルの緋色って知ったら優紀はどう思うだろう。 変わらずこうして抱き締めてくれるだろうか。 ……今までいろんな人達を見てきたから怖い、怖いんだ…優紀。 いつの間にかまた眠り力が緩み優紀は俺の髪に触れた。 「おやすみ、飛鳥」 ーーー 翌朝、眩しい光に起こされて目を開ける。 暗い部屋は嫌だが眩しい部屋も寝起きには大ダメージだ。 隣を見たら優紀はいなかった、チカチカとスマホが光っているのが見えた。 何気なく確認してマネージャーからの着信が物凄い状態になっていて出たくないけどまた電話が鳴った。 「…なに?今日は休みじゃなかったっけ?」 『あぁ~!!やっと出たよ!実は大至急事務所に来てほしいんだけど!』 「マネージャー、また勝手に仕事入れたのか?…まずは言いに来いっていつも言ってるだろ?あのドラマだってマネージャーが勝手に…」 『その事はごめん!でも今回は僕じゃなくて社長が…』 「……父さんが?」 マネージャーはいつもSTAR RAINのためだと勝手に仕事を入れたりする困った奴だ。 とんでもない内容じゃなきゃ受けるんだから事前に相談してほしい。 あのドラマだって急遽マネージャーが決めて普段は来ても恋愛ドラマとか苦手だから得意な圭介に仕事を渡すのに「緋色くんの才能を生かすチャンスだよ!」と意味の分からない事を言っていた。 今回もそれかと思ったらまさか父が関わってるとは思わなかった。 父の名を聞いたら無理してでも行かなきゃならないじゃないかとため息を吐く。 腹減ったな、朝食抜きか。 電話を切り寝間着を脱ぎ私服に着替える。 せっかくの日曜なのにと不満げな顔をしてクローゼットを閉める。 部屋を出るとコーヒーのにおいがした、今日は優紀が淹れてくれたのか。 リビングのドアを開けると優紀はパンを咥えながらコーヒーを淹れていた。 「朝から忙しそうだな」 「はひぃふむっ」 「パンを食うの止めてから喋れ」 パンを引き抜くと口の中にあるパンを飲み込んだ。 そして一息つかず淹れたてのコーヒーを飲んだ。 「あつっ!にがっ!」と台所で暴れていた。 コップを掴み冷蔵庫にあるミネラルウォーターのボトルを取りコップに注ぐ。 キスをして慰めてやりたいが今は急いでるし止まらなくなったら大変だからな。 優紀にコップを渡すと水を一気に飲んだ。 「んくっ、はぁー…悪いな」 「落ち着いたか?で、どうした?今日は学校休みだぞ?」 「分かってる、これからバイトだから急いでただけ…今日は二つあるから帰りは遅くなる…先に寝てていいから」 俺より働き者で感心する。 嫌々仕事をする俺と違って優紀は楽しそうだな、今度優紀の働いているところに行ってみたいな。 優紀が遅くなるから俺も少し遅く帰ろう。 一人で暗くて冷たい部屋にはいたくない。 優紀が吐いたあの夜も、一人は寂しかった。 本当に帰ってくるのか、ずっとびくびく過ごすのはもう嫌だ。 優紀が帰る場所が俺の居場所だ。

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