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第31話

※河原飛鳥視点 今日の仕事は少し面倒な事になっていて眉間にシワが寄る。 芸能界で俺をこんなに不快にさせる理由はあのバカしかいない。 リハーサルに行く途中で廊下でMEMORYのメンバーと鉢合わせした。 それだけで面倒だったのにリーダーのバカが俺に絡んできて周りは「またか」と呆れていた。 スルーするのも体力がいるんだから本当にやめてほしい。 いつものようにスルーしてその場は切り抜けられたが終わった後また絡んできてうんざりしていた。 なにが気に入らないのか知らないが、面倒くさい。 「少し遅くなったな、優紀はとっくに帰ってるか」 部屋に帰るまで安心出来ないからかつらを被り、歩く。 薄暗いし見えづらいから誰も緋色だとは思わないだろう、堂々と歩ける…魔法のかつらだ。 夕飯どうするかな、近くのコンビニで適当に買って帰るか。 目についたコンビニの中に入ると客は仕事帰りのサラリーマンくらいしかいなかった。 冷めた弁当を見ると昔を思い出す、あまりいい思い出ではない俺の記憶。 冷たくて不味い夕飯、母ではない顔も知らない家政婦が作った料理。 温めてもあまり味を感じられず心まで温かくはなかった。 弁当はやめて蕎麦にするか、蕎麦なら元々冷たいし気にならない。 買い物が終わりコンビニから出ると夜風が吹いて身体が冷えていく。 空はキラキラと星が散りばめられていて俺がいる世界とは別次元のように思えた。 何となく眺めていたらキラッとなにかが流れた。 あれは、流れ星か?たまに空を眺める事はあったが初めて見たな。 願い事をすれば叶うとか思ってないがとっさにお願いした。 目を開けるとさっきと何も変わらない空が広がっていて流れ星が消えてから気付いた。 あ、三回願わなきゃならないんだっけ?一回しか願ってない。 まぁ叶うとは思ってないからいいやと思いながら寮に向かい歩く。 何だか人肌が恋しくなった、寒い…冷たい… それは身体なのか心なのか、どちらもなのか分からない。 分からないけど、今はとにかく優紀に会いたかった。 寮の部屋の前に到着してカバンから鍵を取り出して差し込んだ。 まだ10時前だから寝てても不思議ではないが起きてるだろうか。 寝てたら起こすのも悪いからソッとドアを開ける。 リビングの明かりが廊下に漏れ明るくしていた。 それに何よりリビングの方から良いにおいがした。 優紀は何をしてるんだろうと思いリビングに向かう。 「…ただいま、優紀?」 「おー、おかえり飛鳥」 優紀は台所に立ちなにかをしていた、台所の前だから料理なのは分かっているが… 鍋の中身をかき混ぜている、においから中身はよく分からない。 近くに寄ると台所に空き箱が置いてあり手に取る。 そこにはプリンのもとと書かれていて美味そうなプリンの写真がプリントされているパッケージがあった。 プリン?優紀はプリンを作ってるのか?なんでいきなり? もうそろそろだと火を止めて、この時のために買ったか分からないがカップに液体を流し込む。 甘いにおいが優紀を包み込む、ムラッとした。 「なんでプリンなんか作ってるんだ?」 「今朝の飛鳥、なんか疲れてるみたいだったから甘いもの食べれば元気になるだろ?」 「………俺の、ため?」 確かに昨夜の夢を思い出して無意識に暗い顔をしていたかもしれない。 バレないように気を張りすぎたのか逆に優紀に心配掛けるなんてダメだな…本当。 冷蔵庫に液体のプリンが入ったカップを入れて冷ましている。 優紀を後ろから抱き締める、冷えていた身体が暖かくなる。 不意討ちで驚いたみたいだが、すぐに冷静な顔をしてこちらを見つめた その顔を歪めたくてたまらなくなる、俺にしか出来ない事だ。 「飛鳥、これやるから盛るな」 「…これは?」 「プリン第一号、作りすぎて最初に冷やしたプリンは始に食われたがこの一つだけ守った」 「一つじゃ足りない、優紀…」 「お前が甘えてくると不気味だな、明日になったらまた食えるんだからこれで我慢しろ!」 頬に冷えきったカップを当てられ冷たかった。 でも、変だな…頬は冷たいけど心はとても温かい。 夕飯のデザートに優紀手作りプリンが手に入った。 ありがとうと言うと優紀は素っ気なくそっぽを向いた。 でも耳が赤く色付いていて甘い果実のように見えて美味しそうだと思った。 カリッ 「ひぁっ!!な、何すん…」 「うまそうな耳してるのが悪い」 ペロッと自分の唇を撫でると優紀は真っ赤な顔で耳を押さえている。 ちょっと噛んだだけで良い反応をする、だから止められない。 今日はこのくらいにするか、早く優紀のプリンが食べたいからな。 台所から出てテーブルに夕飯とプリンのカップを置いた。 優紀はまだ耳を押さえながら近付いてくる。 そんな顔するな、これでも我慢しているんだ、本気で食うぞ。 「飛鳥、俺…夕飯まだだから、一緒に食っていいか?」 「……え?」 「いや、飯は誰かと食った方が美味いから待ってたんだよ」 そう言って優紀は俺と同じコンビニの袋を見せた。 断る理由が何処にある?こんな可愛い事言われたら…たまらなくなる。 流れ星って、三回願わなくても叶うんだな。 俺が願った事がこんなにすぐに叶うなんて、静かに微笑んだ。 俺はもう、暗い部屋にはいない…温かい部屋にいる。 俺の帰りを待ってくれて、一緒に飯を食ってくれる人がいる。 それだけで、今の俺には贅沢すぎて十分幸せだ。

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