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第32話

※視点なし 人気アイドルグループMEMORYはSTAR RAINより芸歴が長いグループだった。 最初はメンバーが違って20前後のメンバーもいたが今は若い世代に親しみを込めて学生メンバーで落ち着いていた。 その中で小学生の頃からMEMORYに在籍していて唯一初期メンバーで残っている古城怜牙は特にグループを大切にしてきた。 キラキラ光るスポットライトに当てられて観客に笑顔を与える先輩達を後ろから眺めていたんだ、メンバーが変わっても先輩達が残したグループを常に一番星のように輝かせていきたい。 ずっとこの人気が続くと思って疑わなかった、STAR RAINが結成されるまでは… 女性アイドルグループ同様、男性アイドルグループも増えたこの世の中…事務所も巻き込み首位争いが過激化していた。 ファンの数、努力も左右されてチケット売上やグッズ売上もアイドルランキングに関わってくる。 年に一度のアイドルランキング、アイドルとファンが最もドキドキするビッグイベント。 全国生放送されるそれは、日本の名物の一つと言われている…海外からも注目されている。 毎年MEMORYが首位を独占していて常に一位の王座に座り続けていた。 周りのアイドル達から妬み嫉みもあったが後輩アイドル達からは尊敬の眼差しで見られていた。 雑誌も常に表紙を飾り、レギュラー番組3本とドラマ5本CM10本とテレビで見ない日はないと言われるほど国民的アイドルグループになった。 街に出るとどんな変装をしていてもオーラで気付かれてしまうから外に出る事も出来ず睡眠時間は3時間という中学生ながら多忙の毎日だった。 黒髪で切れ長の瞳に全てが整った完璧人間、しかし滅多に笑わないからかクール系王子と恋人にしたい芸能人一位と先輩に欲しい芸能人一位と共に雑誌で紹介されとファンの間で怜牙様と言われていた。 学生メンバー内でも憧れの眼差しで見つめる視線が消える事はなかった。 そんな当たり前だった日常は、突然崩れ始めた。 それはSTAR RAINのデビュー曲発売の時だった。 また新しいアイドルが出たのかと他人事のように家でドラマの台本を覚えながらチラッとテレビの画面を見た。 指先に力が入らず台本がカーペットの上に滑り落ちた。 その時の気持ちは鮮明に今でもよく覚えている。 ソイツを見た時、驚愕と怯えを感じていた。 冷や汗が流れて喉が渇いたがテーブルに置いてあるペットボトルを掴む事すら忘れていた。 見開かれた瞳は画面から目が離せなかった。 それはSTAR RAINデビュー曲発売を宣伝したニュースだった。 無名の筈だ、いや…曲発売前に何処かの番組で宣伝していたのかもしれない…でも、無名なのには変わりない筈だ。 しかし、無名のアイドルのデビュー曲にこんな長座の列見た事ない。 MEMORYのシングル曲発売並に凄い列だった。 アナウンサーの女性も興奮したようにSTAR RAINの紹介をする。 MEMORYと同じ学生アイドルグループらしい、それは珍しくないから気にならない。 唯一気になったのは、ただ一人の男だった。 緋色…本名かどうか分からないが名前は知っていた。 子役からかなり活躍していた、超美少年だ。 共演はした事なかったが、まさかライバルになるとは思わなかった。 怜牙を越える美しい容姿に通りかかった女性も思わず足を止める。 そして容姿だけじゃない、透き通った宝石のような綺麗な声で音に合わせて奏でる歌声は怜牙ですら涙するほど感動した。 コイツは危ない、脅威だと台本を拾いバックに押し込み早々に家を出た。 MEMORYが常にトップでないといけないんだ、先輩達に託された大切な怜牙の唯一の居場所だった。 その居場所を取られたらもう、行くところがなくなってしまう。 ろくに変装していなかったから怜牙だと騒ぐファンが何人かいたが耳に入っておらず事務所に急いだ。 怜牙の嫌な予感は良い予感よりもよく当たる。 その年のアイドルランキングの首位からMEMORYの字が消えた。 二位になっただけだが、怜牙の周りが明らかに変化したのが分かった。 後輩達の憧れはSTAR RAINに変わった、メンバー内には怜牙を慕う奴がいるが怜牙の前でSTAR RAINの名を出せないからというお世辞なのは分かっていた。 ドラマ主演も減り、STAR RAINの本郷圭介が主演…怜牙が友人役とかが目立つようになった。 CMも長年MEMORYがやってきたのに契約期間が終わるとSTAR RAINのに切り替わった。 レギュラーはまだあるが、いつ打ち切りにされるか分からず全力で守っている。 雑誌の表紙もSTAR RAIN、記事もSTAR RAINが多くなりMEMORYの記事が少なくなった。 読者ランキングも緋色に一位を奪われ、常に二位。 ここまで飽きられるのが早いといっそ無関心になる。 クール系王子の怜牙と正統派キラキラ王子の緋色…世間ではライバル関係だと思われている。 実際は怜牙が一方的に緋色を嫌ってるだけだが… こんな事があって、STAR RAINを好きになる方がどうかしてる。 怜牙は一位崩落と言われて一年間過ごしていた。 性格もひねくれる、あまり喋らない王子キャラで良かったと今は思う…明るいキャラだったら口を開いた瞬間に暴言吐いてただろう。 STAR RAINの顔を見ると暴言吐かなきゃやってられない性格になったが… いつかSTAR RAINを蹴落とし、再びMEMORYが頂点に立つ日を夢見て怜牙の歌声でファンを笑顔にする。 どうせこの歌もSTAR RAINに踏みつけられて売上ランキング二位だろうけど… 仕事のし過ぎで可笑しくなってたのかもしれない、今はぐっすり寝れるほど時間が空いてるけど… 気分転換しようかなと緋色初主演の台本を眺めながらそう思っていた。

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