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第34話

翌朝、ふと目を覚ました、静かな部屋で飛鳥の寝息が聞こえた。 隣で眠る飛鳥を見て起こさないように静かにベッドから降りる。 目覚ましをセットしなくても習慣で起きる事が出来る。 スマホの画面を見ると4時を表していた、起きるのはちょうどいい時間だろう。 部活が始まるのが6時で始が来るのは7時半…一時間半で写真を全て売り切ると意気込む。 カーテンを開けるとまだ外は暗くて、少し霧が出た雨の景色が広がっていた。 今の季節は梅雨、じめじめした嫌な天気が続いていた。 廊下に出ると冷たい空気が出迎える、暗いリビングを眺める。 今まで一人部屋で当たり前だと感じていたのに今は飛鳥がこの寂しい景色を明るく照らしてくれたんだな。 …ちょっと気恥ずかしくなりコーヒーでも飲もうとリビングに入った。 そういえば今週から妹に頼まれてたドラマが放送されるんだっけ? 帰りに管理人にDVDレコーダー借りに行かないとな。 電気を付けて明るくなったいつものリビングが見えた。 台所に向かい棚からインスタントコーヒーの粉末を取り出し、水が入ったポットのスイッチを押し湯を沸かす。 こぽこぽという音を聞いて、時間が掛かりそうだからテーブルに置いてあるリモコンを取る。 今の時間ニュースだけだけど、暇潰しにはなるだろう。 天気予報が画面に写し出される、一週間雨か… お天気お姉さんの声とお湯が踊る音だけがリビングに響く。 ニュースも平和だ、動物園にパンダが生まれたとか芸能人が結婚したとかそんなものだ。 大きな欠伸をする、ソファの背もたれに寄りかかり天井を眺めた。 ヤバい、一人で何もする事がないとまた寝そう。 うとうととし始めたらポットから「お湯が沸きました」と音声が聞こえた。 目蓋がくっつきそうになるのを指で擦り台所に向かう。 コーヒーを飲めば目が冴えるかな、あれ?コーヒーって余計眠くなるんだっけ。 インスタントコーヒーの粉末が入ったマグカップにお湯を注ぐと香ばしい良いにおいがした。 ミルクと砂糖を入れてかき混ぜてからテーブルに運ぶ。 今日は朝食を食う気分じゃないからコーヒーだけでいいかな。 ふーふー息を吹いて適温に冷ましてから口を付けた。 喉を通り身体が温かくなる、何となく心もほっこりする。 自分で言うのもなんだけど、美味しい…いつかかっこよくブラックなんて飲んでみたいな。 もう一口飲もうとしたらカシャッと音が聞こえた。 テレビの音ではない、俺が発した音でもない、じゃあ何の音? ふと廊下方向を見ると廊下に続くドアに寄りかかり俺にカメラを向ける男がいた。 「……何してるんだ?」 「いいシーンだったから撮ってる」 何の答えにもなってないなとコーヒーをもう一口飲む。 いつの間に起きたのか飛鳥はカメラを構えるのを止めて操作している。 そのカメラ、確か昨日用事があると寮を出ていき箱を持って帰ってきたがその箱の中身か? 今まで飛鳥の私物で見た事ないカメラだからそうかと思った。 飛鳥は先ほど撮った写真の画面を見せてきた。 そこにはコーヒーを飲むどこか抜けた顔の俺がいた。 「いい写真」 「…どこがだ、恥ずかしいから消せ」 「何でだよ、スマホに転送して待ち受けにするんだから」 「本当に止めてくれ」 飛鳥のスマホを見る度何とも言えない微妙な気分になるだろ。 高そうなカメラをそんなくだらない事に使ってないで、もっと見栄えするものなんていくらでもあるだろうに… 最終的に俺の粘り勝ちで渋々飛鳥は写真を消した。 飛鳥がこのカメラを買ったのは別の目的だからこの写真は試し撮りだと言う。 何の目的で買ったのかは明かしてくれなかった。 まぁ、俺には関係ないだろうから良いんだけどな。 「ところでそのカメラ、高かったんじゃないか?」 「ん?まぁ、でも知り合いのカメラマンに使わないカメラを格安で買ったからそうでもねぇよ……50万ぐらい?」 俺は飛鳥を信じられないものを見るような目で見た。 カメラが50万とか、それを簡単に払える飛鳥も恐ろしいが俺の1万の中古カメラがおもちゃのように感じるじゃないか……これでも高い買い物だったのに… 妹のためなら金は惜しまないが、自分にはそんな金とてもじゃないが払わない…食事だって安いランチとかで済ませるんだ、ケチで構わない…俺はそんな男だ。 飛鳥のカメラに触れず「壊したらどうするんだ!しまえ!」と強調する。 飛鳥はそんな俺を白い目で見てカメラを手から離した。 短い悲鳴を上げてカメラをキャッチしようとして走る。 そのまま足がもつれて顔から床に倒れ込んだ。 紐を付けていて飛鳥は地面にぶつかるスレスレで紐を引いて再びカメラを手にしていた。 やられたと思いながらしばらく床に倒れたまま動かなかった。 顔が痛い…それとなんか恥ずかしいから飛鳥の顔が見れない。

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