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第35話

6時になり、制服に身を包んだ俺と飛鳥は学園に向かった。 飛鳥にもう少し寝てたらと提案するがどんな奴が買いに来るのか興味があるらしく着いてきた。 別に面白いものでもない気がするが、まぁいいか。 傘に雨が落ちてポツポツと音を奏でて磯のかおりがする。 靴が少し水分を吸収してしまい、冷たくて気持ち悪い感じになる。 隣の飛鳥を見ると湿度でかつらが顔にへばりついて鬱陶しそうに髪を払っている。 「雨、しばらく続きそうだな」 「…梅雨だからな」 そう短い会話をしながら水を弾きながら歩く。 学園に着くと俺の下駄箱前にそわそわしながら立つ生徒がいた。 傘をたたみ、傘立てに入れると校舎内に入る。 そこに立たれると邪魔だな、いつもの事だから別に気にしないけど… 上級生だろうが、メガネを掛けた冴えない生徒だった。 その生徒は二つの足音に気付き俺と目が合い駆け寄ってきた。 「きっ君っ!三条優紀くんだよね!」 「そ、そうだけど…」 鼻息荒く前のめりで話しかけられて若干引き気味に答える。 キョドっていていまいちなにが言いたいのか分からない。 飛鳥は何を勘違いしているのか生徒を睨んでいる。 だけど俺は慣れている、人には言えない背徳感を感じる時に挙動不審になってしまうもの。 俺は鞄から例の封筒を取り出し中身を見せた。 新規なら予約していないノーマルのなら売れる。 「どれがいいですか?」 「じゃ、じゃあこれ!」 「五百円いただきます…またご贔屓に!」 手際よく商売を済ませて去る客に手を振る。 飛鳥はあまりの早さに唖然としていた、商売はスピードが命だからな。 誰にも見られたくない人はだいたい早く終わらせたいからな、俺も早くなるさ。 早速一枚売れてスタートが良くて上機嫌で靴を履き替える。 廊下を歩くと肩を叩かれた、飛鳥がいるところとは逆だから飛鳥ではない。 後ろを振り返るとそこにいたのは隣のクラスの担任だ。 飛鳥はまた目を丸くして俺達のやりとりを見ていた。 「予約していたものは出来たかい?」 「よく撮れてますよ」 二人で悪どい顔をしながら予約写真である紫乃のゴスロリ写真を先生に渡した。 先生から金を貰うのは気が引けるが、商売に先生も生徒も関係ねぇ!と受け取る。 財布がほくほくしてきて俺の頬も緩む、この調子で他も頑張るか。 「飛鳥も欲しくなったら言えよ!」と肩を叩くと睨まれた。 …そんな怒る事ないだろ?俺、カメラ撮るの上手いんだぞ。 教室に入ると俺が来るのを待っていたのか数人が駆け寄ってきた。 欲しい奴は順番に並ばせて一人一人売りさばく。 飛鳥は遠くからそれを眺めていた、どうやら俺の近くに近付きたくないそうだ。 さっき押し寄せる群れに弾き飛ばされて無表情で静かにキレていた。 横からの飛鳥の視線が気になり苦笑いする、後でなんか奢ってやるからそんな睨むなよ…俺が奢るのは家族以外ではお前だけなんだぞ。 当初の目的通り綺麗に写真は完売した、売り上げから紫乃の給料分を抜く。 結構儲かったなと思っていたら一人の生徒がまだ残っていた。 「…あの、写真…」 「あー、ごめん…もう売り切れててさ」 「………そうですか」 肩を落として明らかにがっかりした様子の生徒に予約は出来る事を教えた。 本当は顔馴染みの常連しか予約させないがあまりにも可哀想だったから今回だけ特別に予約させる事にした。 予約は写真の予約の他にどんな写真がいいかリクエストも出来る。 小太りの生徒は顔を明るくして鼻息荒く食いついてきた。 リクエストはゆっくり考えるらしく明日伝えると言って自分の教室に戻った。 さてと、本当に今日の商売は終わり背伸びをする。 群れがなくなり、ずっと眺めていた飛鳥がやっとやってきた。 「悪かったな飛鳥、なんか奢るから機嫌直せよ」 「奢るとかより、今日俺に付き合えよ」 「…へ?お、おぅ」 今度は飛鳥が悪どい笑みを見せて、ビクビクしながら席につく。 しばらくすると始と紫乃が登校してきた、朝練終わりに一緒に登校してきたのだろう。 後で紫乃にバイト代払わないとな、今日は少し多めにあげよう。 手で丸を作って紫乃に合図をすると紫乃は分かったみたいで頷く。 バイト代は後でなという合図だ、直に言ったりSNSメッセージで送るとすぐに始にバレるから、いつも始がべったりな紫乃に教えるにはこれしかない。 それを見て不審そうな始が俺に詰め寄ってきた。 「なんだ、今の…お前まさか」 「ドーナツです」 「…は?」 「帰りドーナツ食べに行こうという合図だ、な!紫乃!」 「…う、うん」 紫乃は苦笑いしながら俺の話に合わせて頷いてくれた。 始はなにか言いたげな顔をしていたが、俺が話すわけもなくギリギリとしていた。

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