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第39話

翌朝、喉が痛いまま登校した。 飛鳥は用事があるらしく俺一人だ。 のど飴で少しはマシになったがまだヒリヒリする。 腰も痛いし、同じ歳なのにアイツなんであんなに体力があるんだよ。 今日もポツポツと雨が降り傘を濡らした。 早く止まないかなと思いながらも歩く。 そうだ、紫乃と予定合わせてまた撮影させてもらわないとな。 雨のせいか昨日のアレのせいかなんだかやる気がなくフラフラと校舎の中に入った。 「お、おはよう」 「…ん?あぁ…」 傘をたたんでいると声を掛けられ声がした方向を見ていたら小太りの生徒がニコニコ笑って立っていた。 あー…どっかで会ったな、何処だっけ? 廊下を歩いている時も着いてきて足を止めた。 俺に用だったのか、ただ挨拶してきただけだと思っていた。 とはいえ今は紫乃の写真はないしなぁと思ったら思い出した。 …あ、そうだ…昨日紫乃の写真欲しがってた生徒だ…リクエスト聞いてやるって約束してたな。 「ごめんごめん、リクエストだよな…なにか考えてきた?」 「うん!」 商売スマイルを見せると相手は明るい声で頷いた。 細かいリクエストなら覚えるのが大変だからとカバンからメモ帳とペンを取り出す。 全てのリクエストを受けるわけじゃない、店で売ってなさそうな服とか変なリクエストは受け付けない。 まぁ普通に紫乃の女装姿とかカメラ目線で微笑むとかそんな感じのリクエストが多いから楽だ。 女装の服なら演劇部の部室に去年学園祭で着たのが何着もあるし… 彼もそんな感じのリクエストだと思っていた。 「エッチな事してる写真が見たい!」 「………は?」 メモをしようとしていた手が止まる。 グラウンドでは陸上部の活気ある声が廊下にまで響いていた。 俺の聞き間違え…だよな? それとも冗談? つい低い声が出てしまったがないよな、絶対ないよな。 俺は笑い冗談だと流す事にした。 「ははっ!冗談はいいですから本当のリクエスト言って下さいよ」 「だーかーらー!!エッチな写真!ハメ撮りって言うんだっけ?挿入してる男の顔は写さないで僕がしてるように撮って!」 ハメ撮り…そういえば昨日飛鳥も言ってたな。 言う人が違うとこうも違うんだな。 この男が言うと不快感が半端ない。 リクエストを聞くのを止めてメモ帳とペンをカバンに放り込む。 これ以上コイツと話す気はない。 静かな廊下を歩くとしつこく男は着いてくる。 同じ教室だからだけだったらいいがさっきからハメ撮りハメ撮り言っている。 ……周りから見たら変な風に思われるから止めろ。 「何度言われてもダメだ、紫乃は俺の大切な友人だ…そんな事出来るわけない!紫乃じゃなくてもごめんだ」 「ほっ、本気で好きなんだよー!!」 「残念だけど紫乃には恋人がいるからな」 あまりにもしつこくて腕に絡み付いてきたから無意識に力を込めて振り払うと豪快に転がった。 男のカバンが開いていたのか中身をぶちまけていた。 さすがに悪いと思って男に手を差し伸ばそうとしたがあるものが見えて固まった。 男は「あぁっ!!僕の恋人がっ!!」と落ちたものを一枚一枚優しく撫でてからカバンの中に入れていた。 ゾッと背筋が冷たくなり顔を青くする。 男は写真を全て拾い終わり固まる俺を見て笑った。 いやらしい、気味が悪い笑みだ。 「ずっと健全な写真ばかりでも良かったんだ、でも最近色気を感じてきて夢の中ではいっぱい良い事してたんだけど、足りなくなって本物の……君のエッチな姿が見たくて…」 「お前…なんで、それ…俺の…写真」 震える声でそれが精一杯だった。 男が持っていた数十枚の大量の写真には俺が写っていた。 しかもどれもカメラに目線を送ってない、明らかに隠し撮りだ。 教室で求人雑誌を見たり、食堂で昼飯を食べていたりたまに部屋でテレビを見ている写真もあった。 ……誰がこんなの… 今まで撮られてるなんて気付かなかった。 俺の場合は紫乃に協力してもらっている、しかし俺はコイツに協力した記憶がない。 コイツが隠し撮りしていたのかと睨むと慌てている。 「何のために隠し撮りなんてするんだ、俺みたいに売ったりしてるのか?」 「ぼ、僕じゃないよ!これはある人から買ったんだよ!正直紫乃くんより優紀くんの方が人気高いよ」 誰から買ったのかと胸ぐらを掴むがもう口を閉ざしてしまい何も話す気はないという態度だった。 殴りたいがコイツを殴っても俺が生徒指導室行きになるだけだから得はない…脅してもこのヘラヘラした顔を見ると言いそうにないだろう。 男を離してとにかく俺を隠し撮りしている奴がいないか周りを見る。 廊下に出ている生徒は俺達しかいないしここは二階だから窓の向こう側にへばりついている奴なんていないだろう。 紫乃より俺が人気?そんな事言われても嬉しくないし、紫乃の方が可愛いに決まってるだろとイライラしながら自然と歩くスピードを早める。 それを後ろから男が着いてくる。 「ねぇねぇ、裸だけでもいいよ…他人に頼むわけじゃないんだし」 「俺は今怒ってるんだ、あまり怒らせない方がいい」 「怒った顔も綺麗だねぇ、あぁっ!僕にもカメラがあれば…」 顔を覗き込んできたからやっぱり一発殴ろうと決意した。 そして男の方を向こうとしたら俺と男の間に誰かが割り込んできた。 俺からは背中しか見えなかったが、それが誰だか分かった。 男の顔面を鷲掴みして目線を合わせている。 さっきまで余裕そうだった男の顔がみるみると青ざめて汗を流している。 何も喋ってないのに……どんな顔してるんだ? 顔面を掴んでいた手を離すと泣きべそを掻きながら走り去っていった。 呆然とそれを見ていたら背中しか見えなかったがこちらを振り向いた。 それは俺が知ってる顔だった。 「……飛鳥」 「今さっきの奴、お前にキスしようとしてなかったか?なにかあったのか?」 飛鳥は来たばかりで当然俺達が何をしていたのか知らなかった。 なんか安心して怒りも治まった。 二人だったら盗撮犯も見つかるかもな。 俺は飛鳥に歩きながら全て話した。 飛鳥は驚いた顔をしていてあの男が逃げた方向に向かおうとしていたのを腕を掴み静かに止める。 今の飛鳥は何するか分からない。 「止めるな優紀、写真もろとも豚の丸焼きにしてやる」 「こらこらやめろ、ソイツもいろいろと問題だが盗撮犯が先だろ!」 飛鳥は不満そうだったが分かってくれたのか大人しくなる。 俺は俺で金儲けしている盗撮犯が許せなかった。 自撮りで金儲け出来るならとっくにやってる!…しかし俺はナルシストじゃないからな、そんな自信はないから売らない。 犯人突き止めたらどうしてくれようかと俺は密かな怒りを見せた。 教室に入り、周りを見るが特に違和感はなく皆それぞれのグループで時間を過ごしていた。 俺と飛鳥は席に座る。 監視カメラでもあるのかと周りを見渡すと飛鳥はため息を吐いた。 「あまり疑心暗鬼になるなよ、周りばっかり見て目の前でつまずいたら意味ねぇぞ」 「……分かってる」 飛鳥はスマホを眺めて何やら考え事をしていた。 そして「ちょっと電話してくる」と言って教室を出ていった。 疑心暗鬼になるなと言われても今も何処かでカメラを構えてると思うと見えない恐怖で怯える。 早く飛鳥帰って来ないかなと教室の入り口を見つめる。 俺に聞かれたくないから席を外して電話とかしてるんだろうから飛鳥に着いていったらヤバイよな。 頬杖をつきながらボーッとする。 何も考えないようにしようと思っていると考えてしまう。 ……気になる、飛鳥…まさかあの変態に会いに行ってたりしないよな? 別に飛鳥が写真を流したとは思わない、あの変態の写真の中で去年の学園祭とかの黒歴史写真も混じっていたから飛鳥が転校する前だからあり得ない。 そうではなく、飛鳥は怒っていた…俺のために怒ってくれて嬉しかったが俺のせいで飛鳥が生徒指導室行きになったら困る。 ……VIPな飛鳥でもさすがに暴力沙汰はマズイだろう。 誰かと話してたら会話は聞かず遠くで見守ろう!そうしよう! そうと決まれば席を立ち廊下に出た。 どっちに行っただろうかとキョロキョロ周りを見ていたら見知った顔が見えて駆け寄る。

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