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第40話

「紫乃に始!」 「騒々しいな、少しは落ち着け」 「どうしたの?」 朝練終わりでユニフォームのままの紫乃と紫乃の部活終わりまで待っていたであろう始がいた。 二人なら飛鳥とすれ違ってないかと考えた。 俺が慌ててるのを見て二人は首を傾げていた。 二人には盗撮犯の話はしないでおこう。 今のところ俺だけが被害者だと思うし、早めに捕まえれば他の奴に被害はいかないと思っていた。 終わったら笑い話として話そう。 「飛鳥を探してるんだけど、何処に行ったか分かるか?」 「河原くん?そういえばさっき空き教室に入っていったのを見たよ」 「一人で?」 「うん」 紫乃が指差した方向を見ると俺が初めて飛鳥の正体を知ったあの空き教室がある一階への階段だった。 紫乃にお礼を言い階段を降りて歩き出す。 相変わらず空き教室が並ぶここの廊下は人気がない。 しかも今は雨も降っていて湿気でさらにどんよりとした雰囲気だった。 幽霊とか信じてない俺は気にせず歩く。 あの時と一緒の空き教室だろうか。 一番端の空き教室で足を止めてドアに耳を近付ける。 ……なんかこれじゃあ盗み聞きじゃないか。 会話を聞かないつもりだったのにと帰ろうとドアから離れる。 「あぁ、悪いな…そう伝えてくれるか?」 飛鳥の声に固まる。 やっぱりここにいたのか。 どうやら電話しているようだ、飛鳥の声しかしない。 聞いちゃいけない、それは分かってるんだが結局ドアにへばりつく。 他の奴が見たら完全に不審者だな。 誰と話してるんだろう、気だるい感じだし気を許してる相手なのか? 学園で俺達以外と居たのを見た事ないから外の友人か? 気になる…食い入るようにドアに寄りかかる。 「あ?理由?」 飛鳥は考えている。 理由はあるがどう言えばいいのか頭の中を整理しているようなそんな感じがした。 俺はドアに背を向けて寄りかかる。 窓を見ると登校した時より雨が酷そうに思えた。 サーッと音が廊下にまで響いている。 早く止まないかな… 「…大切な奴が今困ってるんだよ、ほっとけねぇだろ」 飛鳥はそう言った。 大切な奴って言われて一瞬誰だ?と思ったが、困ってる奴は俺以外にいただろうかと考える。 自意識過剰だったら恥ずかしいが顔を赤くする。 誰に言ってるのか知らないが、恥ずかしげもなく言える飛鳥は凄いなと思う。 「他の仕事はちゃんとやる、今日だけだから…悪いな」と続けて言った。 仕事を断って俺の傍に居てくれるとは思ってなくて驚いて後ろを振り返ろうとしたら突然ドアが開いて、体重を掛けてたからそのまま床に倒れた。 飛鳥が覗き込んで来るから苦笑いする。 「何してんだ」 「…わ、悪い」 飛鳥は怒る事はなく呆れたため息を吐いた。 手を差し伸ばされて立ち上がる。 もう空き教室に用はないのか歩き出して、俺も横に並ぶ。 飛鳥に仕事を休んでまで付き合わすとなると申し訳ない。 それに今日犯人が見つかるか分からない、長期戦になるかもしれない。 飛鳥を巻き込んでいいものか悩む。 「飛鳥、今日なにか仕事あるんだろ?俺の事は大丈夫だから仕事優先しろよ」 「…は?」 飛鳥のためを思って言ったが飛鳥は不機嫌そうに俺を睨んでいた。 そりゃああんな話聞かされたら気になって仕事どころではないだろう、飛鳥が今日用事あるなら俺だって内緒にしていた。 話した事は仕方ない、飛鳥の記憶を抹消出来るわけじゃないし… それなら飛鳥を安心させなくては… 恋人同士の間に入るのは勇気がいるが、これなら飛鳥も安心出来るんじゃないかと思った。 静かな廊下で雨音と靴音が共鳴していた。 「紫乃と始の部屋にお邪魔するから大丈夫だって!な?」 「………俺じゃ頼りないのか」 飛鳥は足を止めた。 不思議に思い少し進んだ先で立ち止まり後ろを振り返った。 前髪が影になり飛鳥の顔が分からない。 ただ、空気が重くのし掛かる。 飛鳥が頼りないとかそんなんじゃない、ただ俺は俺個人のせいで飛鳥の仕事をダメにしたくないだけだ。 電話を聞いていて大切な仕事なんだと分かる、俺だっていろんなバイトをしていたんだ…飛鳥の仕事は分からないがそれだけは分かった。 俺は男だし、盗撮は気持ち悪いが今はまだ実害はない…怯えているわけじゃないし、犯人は捕まえるつもりだ。 二人いた方がいいが俺一人でも犯人くらい捕まえられる。 だから飛鳥は飛鳥の時間を過ごしてほしかた。 ……他人から見たら頼りにされてないと思われるかもしれないな。 だから違うって事をちゃんと伝えなきゃな。 「飛鳥、そうじゃなくて…」 「勝手にすればいいだろ」 俺の声を遮るように冷たい飛鳥の声が突き刺さる。 まるで飛鳥が転校してきた時のような拒絶。 俺は言葉に詰まって何も言えなかった。 誤解だって言わなきゃいけないのに… 俺の横を通り過ぎる飛鳥をただ呆然と見ているしかなかった。

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