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第44話

もうカメラを事実上壊したから大丈夫……と言おうとしたが口を閉ざす。 そういえばまだいるんだっけ、俺の写真ほしい奴。 それにあの男だって新しいカメラを買って同じ事をしない保証はない。 ……あんなのに警戒しながら長く付き合わなきゃいけないのかとげっそりした。 というかこの場面も撮られたらまずかったのでは? 飛鳥が分からない筈ないよなと飛鳥を見ると笑ってみせた。 「今この場には俺達以外の気配がないから撮られてないだろ、それにああいう奴らは自分と優紀を妄想するからがっつり俺がフレームに入ってりゃあ撮る気失せるだろ」 「……そんなもんか?」 いまいち変態の思考は分からないと苦笑いする。 学校のトイレで自慰するわけにもいかず、賢者タイムをしながら教室に入る。 席に向かう前に飛鳥が耳元で「帰ったらたっぷり可愛がってやる」と囁かれた。 頬を赤くして飛鳥を見ると「またエロい顔」と頬を摘ままれた…不可抗力だろ。 まだポツポツと降り続ける雨の音を聞きながら授業を聞いている。 チラッと隣の飛鳥を見ると気持ち良さそうに寝ていた。 ……すげぇ、堂々と授業中に寝てる奴初めて見た。 起こした方がいいよな、数学の飯田は怖いと有名な先生だし… 飛鳥の肩を揺すると、怠そうに飛鳥が目を開けた。 しかし時既に遅く、飯田は飛鳥の目の前にいた。 当然のように飛鳥を連れていき問題を解かせる。 寝てて分からないんじゃないかとハラハラしながら飛鳥を見ていた。 飛鳥は手を止める事なくすらすらと答えを書き込んだ。 ついでに先生の間違っている数式を正して欠伸をしながら戻ってきた。 先生は飛鳥に恥をかかせるつもりが自分が赤っ恥をくらっていた。 飛鳥、凄いけど戻ってきて早々にまた寝るなよ。 「凄いね河原くん!頭いいんだ!」 「…覚えてねぇ」 「寝ぼけてたのか!?」 昼休み、皆で食堂で食べようとやってきていた。 紫乃と始は俺達が喧嘩していたと思ってたのか最初は戸惑っていたが、俺が飛鳥の肩を叩き「もう大丈夫だ」と言うとホッとしたような顔をしていた。 食事をテーブルに運び、さぁ食べようとしていたらさっきの飛鳥に興奮気味で二人は話題にしていた。 ……なんか妙にテンション高いな、あー…そういう事か。 俺には関係なさそうだなと思いながら、ラーメンを食べて眺める。 凄い凄いと言うが飛鳥自身覚えてなくて首を傾げていた。 「河原くん寝てたのに分かるんだね!」 「…何の問題か覚えてねぇけど、転校する前は進学校に通ってたからな…この学校は勉強遅れすぎてねぇか?」 「へぇ、なんで進学校からこんな平均的な学校に転校してきたんだ?」 「寮があるから」 二人は綺麗にハモり「へぇー」と言っていた。 なんというか気が抜けるほどほのぼのとした会話だな。 二人も早く本題言わないと飛鳥を誉めるだけで終わるぞ? ここも一応偏差値は低くないんだけどな…進学校と比べたら劣るだろうけど… おっ、チャーシュー二枚入ってる…おばちゃんありがとう。 二人は飛鳥の顔色を伺っている、そろそろ本題か。 「それで、飛鳥様…」 「お願いがありまして…」 「他をあたれ」 目の前で固まる二人を気にせずカレーを食べていた。 本題言う前にバッサリ切ったな……同情する。 二人は今度は俺にすがるような顔を向けている。 そんな事をされても意思は飛鳥にあるからな、苦笑いするしかない。 飛鳥が嫌って言うのを俺が変えられるとは思わないんだけどな。 すると始は無言で席を立ち食券自販機に向かった。 まだ食うのかと眺めていたらなにかを買い、すぐに戻ってきた。 そしてそれを無言で俺のラーメンに入れた。

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