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第48話
呻き声を上げて身体を動かし、ソファーの硬い感触にゆっくりと目を開けた。
少しだけ部屋は薄暗くて、窓のドアから朝日が差し込む。
時計を見ると6時を差していた、まだ眠たいが起きないとなとゆっくり身体を起こす。
テレビは消されていて、とても静かな空間に寝息だけが響いた。
寝息のする方に目線を向けるとソファーに寄りかかり瞳を閉じる金髪の少年がいた。
一緒に寝ているのにあまりよく見た事がない飛鳥の寝顔は少し幼さが残った年相応の可愛い寝顔だった。
俺なんてほっといてベッドで寝ればいいのに、しかも俺がソファーから落ちないように俺の身体の真ん中らへんで床に座っている。
飛鳥のかつらではない地毛の頭を起こさないようにゆっくりと撫でた。
するするとほどける柔らかい触り心地の髪にもっと触っていたくなった。
「…んっ」
「悪い、起こしたか?」
「………いや」
くすぐったかったのか飛鳥はゆっくりと目を開ける。
まだボーッとしているのかまっすぐ見つめている。
朝の目覚めにコーヒーでも入れようかと立ち上がる。
喉も腰も慣れたのか最初にした時と違い、あまり痛みはなかった。
台所に立ち、コーヒーを沸かしている間に冷蔵庫を開けて朝食の準備をしようとする。
するとそこには昨夜までなかったペットボトルの水が置かれていた。
未開封のペットボトルを取り出すと紙がくっついているのが見えた。
愛情が詰まってる紙を見つめてクスッと笑った。
「…飛鳥」
「うわっ、もう見つけたのかよ…せめて俺が居ないときにしろよ」
飛鳥はキッチンに立つ俺を嫌そうに見ながらそっぽ向いた。
それは飛鳥の照れ隠しだって分かっているからニヤニヤが止まらない。
「昨日は無理させた、悪かった」と直接言えず不器用に書かれた紙を剥がして、大切に折り曲げてポケットに入れた。
ーーー
あれから数日が経過した、今日は休日で飛鳥とのんびり過ごしていた。
飛鳥も俺も今日はゆっくりしようと仕事を入れていない。
飛鳥は忙しそうだが多忙な芸能人ならテレビで見てるんだけど、いまいちぴんとこないな。
唯一飛鳥似なのは画面越しでカッコよく喧嘩をしている緋色くらいだ。
俺は今、録画していたドラマを飛鳥と見ていた。
最初は嫌がっていた飛鳥だったが俺が手を握り飛鳥が逃げるのを防いだ。
緋色だってアイドルだけどいい役者でもあるんだからそんなに嫌がらなくても…
見ていくうちにきっと飛鳥も好きになると思う。
ずっと画面をガン飛ばしているけど…いずれ…多分…
「飛鳥、そういえば飛鳥がいなかった日…一度寮に帰ってきてたのか?」
「…あ?何でだ?」
「コーヒーカップ洗ってあったからさ、気のせいかと思ってたけどやっぱり不思議でさ」
「…あー、まーな」
飛鳥は何故か俺を見ながらくすくすと笑い言う。
なんだよ、俺なんか変な事言ったか?自分でも考えてみる。
テーブルに手を伸ばしコーヒーカップを掴む。
あれ?…でもあの時飛鳥が帰ってきてたのになんで気付かなかったんだ?いくら気を付けていてもドアを開ける音に気付く気がするんだけどな。
一口コーヒーを飲む、心の底まで染み込むように暖かい。
そういえばあの時…俺、何をしてたっけ…確か俺は…
「…飛鳥、いつ帰ってきてたんだ?」
「くくくっ…お前が『飛鳥飛鳥』言いながらエロい事してた時?」
その一言で一気に顔が赤くなり唇が震えた。
まさか、あの時の事見られてたのか!?夢中になって気付かなかった。
顔が真っ赤になり、飛鳥を睨む…消えられるならあの時消えたい。
「飛鳥なんて呼んでねぇ!」とソファーのクッションを飛鳥に投げつける。
クッションを掴みながらまだ笑うのを止めない飛鳥にムスッと頬を膨らませる。
飛鳥がいないからってあんな事するんじゃなかった。
……遅い後悔だがしなきゃやってられない。
「機嫌直せよ、ほらあーん」
「んぐっ」
口に飴を無理矢理押し込まれる、コロコロと口の中で転がす。
甘さが怒りを浄化してどうでもよくなってきた。
……俺ってかなり単純だよな、恥ずかしさは消えないけど…
外はもうすっかり青空で天気予報もしばらくは雨の心配はないと言っていた。
雨は雨で良さはあるが、やっぱり晴れた日の方が好きだな。
飛鳥は俺がまだ怒ってると思っているのか、顔色を伺っていた。
もう怒ってはいない、あの時部屋に入られたら今以上に恥ずかしい思いをしていたと思うからあれで良かったのかもしれない。
「飛鳥、今日は丸一日休みだよな」
「ん?あぁ」
「外に出かけようか」
こんな天気がいいんだ、一日中寮にいたらもったいない。
それに飛鳥と一緒に行きたい場所はいっぱいある。
遊ぶ場所ならいっぱいあるし、食べ歩きも悪くない……飛鳥となら何でも楽しいかもしれない。
飛鳥も笑って頷いた、そういえば二人だけで出かけるのは初めてだな。
テレビの画面を消して、寝間着を着替えようと部屋に向かう。
何処に行こうかと話しながら着替えていたら飛鳥が「げっ…」と短い声を出した。
飛鳥に背を向けて服を来ていたから振り返ると飛鳥のため息が聞こえた。
「飛鳥、どうした?」
「…なぁ、遊ぶ前にかつら買いに行っていいか?」
「…………は?」
飛鳥が手に持っているのはいつもしているかつらだ。
しかし、なんかいつもより艶がないというか…ごわごわしている。
どうやら梅雨が続いていたせいかかつらがダメになってしまったようだ。
少しくらいダメでも被れるだろうと思っていたが飛鳥はかつらにこだわりがあるようで許せないそうだ。
安物だから傷みも早いと嘆いていた、俺にはかつらの事は分からない。
高校生がかつらを買いに行く、シュールだなと苦笑いする。
「まぁ飛鳥の学校生活には欠かせないものだからな、いっその事アフロにしないか?」
「バカ、顔が隠せないだろ」
顔が隠れればアフロでもいいのか、飛鳥はかつらの形には前髪以外こだわりがないようだ。
次は高いのを買うみたいで予約して完成するのはいつだって計算していた。
しばらくはまだそのかつらだなと思いながらズボンにベルトを通す。
そうだ、今度の休みは妹に会わなきゃいけないな。
ドラマも終わり妹にDVDを渡す約束をしていた。
結構面白くて、良くできた話だなと思いながら全話見ていた。
映画化も決まってるみたいだし、飛鳥も一緒に見てたし飛鳥と行きたいな。
…あ、でもラブストーリーを男二人で見るのは変だろうか。
そんな予定も考えながら今日は飛鳥と遊ぶ事に集中した。
ちょっとデートみたいだって思ってたのは俺だけ…かな。
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