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第50話

※三条優紀視点 パラパラとノートを捲る音とノートの上をペンが走る音がする。 俺はフライパンを片手にホットケーキを作っている。 頑張っている皆のためにせめてこれくらいはと思って始めた…5分前の事だ。 今日は予定通り始の部屋で勉強会をしていた。 飛鳥がテーブルに頬杖をつき、目の前を睨んでいた。 「優紀…」ととても低い声で飛鳥は言った、俺はホットケーキをひっくり返しながら苦笑いした。 「コイツら絞めていいか?」 「…穏便にな」 飛鳥の目の前に広がる光景は、勉強に飽きてそれぞれの時間を楽しんでいる始と紫乃が写り込んでいた。 飛鳥の気持ちも分かる、俺が教えた時もそうだった。 しかし、記録更新だな…まさか5分で飽きるとは… 最終的に俺にホットケーキの催促をしてきた始と紫乃に飛鳥はとうとうキレた。 「パパが怒ったぁ!」と意味の分からない事を言い逃げる二人を追いかける飛鳥。 いつの間にか部屋では追いかけっこが始まっていた。 今日はもう完全に勉強する気がなさそうだなとホットケーキを皿に乗せる。 赤点になったら夏休みが削られるから飛鳥に勉強を頼んだんじゃないのかと呆れる。 なにかいい方法はないのか、二人がやる気になる事…… 「…くそっ、アイツらのせいでストレスが溜まる!」 「まぁまぁ甘いもの食ってからどうするか考えよう」 紫乃と始を呼んで皆で席についた、本当に家族のようだなと微笑む。 今日のホットケーキはなかなか出来がいいと自分でも思う。 美味しそうに食べてくれて嬉しかった、やっぱり食べてくれる人がいた方が作る方も楽しい。 「ママのホットケーキ美味しい」と言っていたがこんなデカい子供産んだ覚えはないと言った。 二人が絶対にテスト勉強頑張る方法か、夏休みに予定を入れればそのために頑張ろうってなるよな。 俺は結構バイト入れるから空いてる日をスマホのカレンダーで見る。 「8月の始めにどっか遊びに行くか」 俺がそう言うと単純な二人は目を輝かせた。 遊びの話は乗るのに何故一ミリも勉強に行かないんだ。 しかし8月の始めは赤点補習が待っているから赤点は嫌なのだろう。 赤点取ったらまず遊びに行くのは無理だしな。 飛鳥もスマホで予定を確認していた、忙しいのか? 今までは恋人がいる夏休みというのを知らずにバイトばかりしていた。 ……だから少し楽しみだった、いつもと違う夏休みに… 「あー、俺は行けない」 「そ、そうなのか」 飛鳥忙しそうだしな、と思ったより声のトーンが下がっていた。 自分では分からないが飛鳥が「寂しいのか?」と頬をつついてくるほどにはあからさまにガッカリしていたのだろう。 多忙でも一日くらい遊べないのかなと考える。 俺達を見て紫乃と始は何故かイチャつき出した…俺達、イチャついてるように見えたのか? 俺の目の前に一切れのホットケーキを差し出されパクっと咥えた。 ふわふわの生地にとろけるような甘さの蜂蜜に頬が緩むと飛鳥も微笑んだ。 「上条、お前STAR RAIN好きだよな?」 飛鳥は突然紫乃にそんな事を言っていて、紫乃は食いついた。 そういえば初対面の会話の時にそんな話を紫乃がしていたな。 あの時はまだ転校したてで少々飛鳥も荒ぶってたな。 何気ない会話だと思っていたが、覚えてたなんて驚きだ。 紫乃は頷きCDも全部初回盤で持っていてドラマや映画のDVDやファングッズもあると熱弁していた。 ……ここが紫乃の部屋じゃなくて良かった、絶対全部持ってくるからな。 聞いた本人の飛鳥でさえ引いていて顔を引きつらせている。 「そ、そうか…じゃあ尚更テスト頑張んないとな…8月の始め、海の近くでSTAR RAINのコンサートがあるんだよ」 「えぇー!!」 紫乃は目を見開き身振り手振りが大きくてオーバーすぎるリアクションで驚いていた。 熱狂的なファンである紫乃ならこれでテスト頑張ろうって気になるだろうな。 紫乃は早速食べ終わった皿を片して勉強にとり掛かる、切り替え早いな。 紫乃が勉強し出したから始もつられて勉強する。 紫乃が行きたそうだし、8月の始めはSTAR RAINのコンサートにでも行くかな。 生で緋色も見てみたいし、たまにはいいかもな。 それにしても飛鳥、よくそんな事知ってたな…なんだかんだ言ってSTAR RAINのファンだったりして? やっとやる気になった二人に飛鳥は勉強を教えていた。 俺も得意科目を教える、二人でやればそれなりに点数は取れるだろう、俺の勉強の予習にもなるしな。 いつもこのくらいやる気になれば勉強教えてやるのにと苦笑いした。 ペンが走る音が響き、カチカチと時計の針の音が進んでいく。 チラッと時計を見るともうそろそろ大浴場の入浴時間終了30分前だった。 紫乃は部活の疲れが取れないといつも部屋の風呂じゃなく大浴場を利用している。 そろそろ終わるかと始が用意した問題集を閉じた。

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