53 / 82
第53話
飛鳥にSNSを送ったから来るだろう。
スマホを眺めながら俺は焼きそばパンをかじる。
全然既読されない…見てないのか?電話の方が良かった?
いやいやいや、今取り込み中だったら悪いよな。
もやもやする俺を眺めながら紫乃は生暖かい顔で見ていた。
俺達の事を知らない鈍感な始だけがよく分からず首を傾げていた。
しかしその日の昼飯に飛鳥は一度も姿を現さなかった。
飛鳥が現れたのは午後の授業が始まる前だった。
「悪いな、昼飯行けなくて」
「いいけど…なにかあったのか?」
「………ちょっと、な」
それ以上飛鳥は言わず机に頬杖をついていた。
飛鳥にも職員室で言われた事を報告したかったが、なんだか疲れたような顔をしている飛鳥を見て何も言えなかった。
…まぁ、大した事じゃないからいいか。
そして時間はカチカチと流れていき、あっという間に放課後になった。
飛鳥、俺になにか言えない隠し事でもあるのだろうか。
そりゃあ何でも話せるわけないのは分かっている。
もやもやしつつも放課後は勉強を見る約束してるし、帰ってから飛鳥に聞けばいいかと思い気持ちを切り替えた。
「ん?優紀、今日バイトか?」
「いや、今日はちょっと用事があってな…飛鳥は勉強会か?」
「…あー、面倒」
嫌な顔をする飛鳥に苦笑いして背中を押した。
もうSTAR RAINのためにやる気を出してる紫乃達なら真面目に勉強してくれるから手間は少なそうだが勉強そのものを教えるのが面倒なんだろうな。
飛鳥はこちらを振り返った。
背中を押していたからいきなりの事で驚いて足を止める。
このまま歩いていたらキスするところだった…危なかった。
しかし飛鳥は俺の首の後ろを掴んで引き寄せた。
転ばないように飛鳥の引き締まった胸元に手を添えると耳元でチュッとリップ音が聞こえた。
呆然と飛鳥を見るとイタズラに成功した子供のようにニッと笑った。
「じゃあな、帰ったら…」
そこで言うのを止めて紫乃達のところに向かった。
紫乃は部活だから先に始と勉強会だろうかとボーっと考える。
変なところで区切られてその先が気になるじゃん。
帰ったらなんだよ…
しかし、飛鳥を引き止める元気は俺にはなかった。
柔らかい感触がした頬に触れた。
いつも俺の頭をぐちゃぐちゃにするキスばかりするくせに、なんだよ頬にキスとか…
赤くなった頬を誰にも見られないように手で隠す。
「順番違うだろぉ…」
くそっ、小学生みたいなキスでなんで俺はときめいたんだ!
気持ちを切り替えて勉強を教えようと思っていたのにどうするんだよ、バカ。
とりあえずカバンを持ち図書室に向かう。
もう来てるだろうか、俺は相手を知らない…分かるだろうか。
そんな不安は図書室に入ってから消えた。
図書室には勉強する生徒や調べ物をする生徒、何しに来たのか寝てる生徒がいた。
その中で四人用の席に座りこちらに手を振る進藤先生が見えて駆け寄る。
「遅くなりました」
「ううん、大丈夫だよ!じゃあ彼の事よろしくね」
進藤先生は忙しいのか、俺にそれだけ言うと席を立ち図書室を出て行った。
これから部活だっけ、確か進藤先生はバスケ部の顧問だよな…紫乃から聞いた事がある。
見た目はバリバリの文系なのになと苦笑いしてもう一人席に座る生徒を見た。
黒髪でクールな感じだが、なんか頬杖をついてやる気なさそうだ。
まぁ勉強が嫌いだから赤点危機なんだろうけど…
「俺の名前は三条優紀、よろしくな」
「……」
コイツ、無視しやがった。
ともだちにシェアしよう!