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第54話
一応勉強教えてやる相手に対して「よろしく」の一言もないのかよ。
机には参考書が並べられている、先生が持って来たのか…これなら楽だな。
参考書を手に取りパラパラと捲りながら前を見る。
筆記用具は置いてあるのにノートを開く事をしない。
紫乃達は友人だから大目に見ただけだ、俺…心広くないんだけど…
参考書を閉じて睨む。
「やる気ないなら帰るけど」
「……」
「先生から赤点予備軍って聞いたけど、いいのか?このままだと補習だぞ」
「俺を誰だと思ってるんだ、赤点なんて取るわけない」
いや誰だよ、誰でも赤点とる可能性はあるだろ。
ため息を吐いた。
そんなに自信があるなら一人で頑張ってくれ。
本当に勉強する気がないのか、スマホを弄り出した。
俺は無駄な時間を消費したなと思いながら図書室を出た。
飛鳥達何処で勉強してるんだ?差し入れ持ってこうかな。
SNS開こうとしたら後ろから声が聞こえた。
「おい」
「…何だよ」
後ろを向くとアイツがいた、図書室のドアに寄りかかっていた。
まだなにかあるのかよと男を見つめるとさっきの態度とは少し違い嫌そうな顔をしつつも気まずそうに目を泳がせていた。
俺はもう勉強教える気が失せていて、用があるなら早くしろと目で訴えた。
整った綺麗な顔をしているが、ずっと飛鳥を見ているせいかそうでもないように感じている。
他の美形に対しても同じ事しか思わないが…
俺の目、かなり贅沢になってるな。
プライドが高いのかさっきの態度を取ってしまい何も言えなくなった男に痺れを切らして歩き出す。
「チッ、勉強教えるためにきたんじゃないのかよ!!」
「…あ、まぁ…そうだけど」
いきなり大声で叫ばれ目を丸くしつつ頷いた。
勉強する気なかったのはコイツなのになんで俺が責められてるみたいになってんだよ。
不満はいろいろあるが、廊下を歩いていた人達に注目されて居心地が悪く図書室に押し込んで好奇の目から逃げる。
とりあえずさっきの席に座る。
参考書とかはそのまま置いていたから今すぐに勉強を始められそうだ。
今度はちゃんとノートを出していて、勉強する気になったのは分かる。
「…マネージャーが、赤点取ったらサマフェス参加させないとか言うから仕方なくな」
「?…はぁ」
マネージャー、何の?部活の?
というかあれか、コイツ…もしかしてツンデレとか言う奴か?
たまに紫乃が始をそう呼んでいるのを聞いた事がある。
面倒くせぇ…さっさと終わらせるか。
静かな図書室にペンの走る音が響く。
俺はコイツの実力が知りたくて簡単な問題を作りやらせていた。
結果はまぁそれなりだな。
それなりに頭悪いんだな。
全ての問題が終わった後ドヤ顔でこちらを見る。
俺は自作テストの紙を回収してくしゃくしゃのボールのように丸めて少し遠いゴミ箱に投げた。
おっ…入った、ラッキー。
「おい!採点もしてないのに何捨ててんだ!」
「さっき見てたから採点は必要ない、そんな時間あったら数式の一つくらい叩き込め」
「ぐっ…ぅ」
何も言えなくなったのか唸るだけの男を愉快そうに見て勉強を教える。
覚えはいいみたいだが、他の事で気を取られて忘れてしまう…そう思った。
あ、ほら…今だって上の空だ。
シャーペンで頬を刺すと立ち上がりキレていた。
言っとくが俺はスパルタなんだよ、1円にもならない無駄な時間を過ごしてやってんだから…
くるくるとペンを回し次はどれをやろうかなと探る。
一度得意科目を挟むのもいいよな。
「なぁ、なんか得意な科目あるか?」
「……音楽と体育」
あー…ダメだこりゃ…
別の事を考えよう、紫乃達がやる気になったようにご褒美でも与えれば上の空にならずにやる気になるのではないか?
と言っても初めて会ったし、餌が思いつかない。
サマフェスがどうとか言っていたが、何の話か分からないし…そもそもサマフェスのために頑張っている筈なのに上の空とか、効果がまるでない。
STAR RAINが好きそうには見えないしな、隠れファンなら分からないが…
紫乃にやった餌じゃ釣れなさそうだ、何となくだけどな。
また上の空になりつつある男にペンを近付ける。
「いてっ!だからそれやめろ!」
「勉強に集中しないからだ」
「やる気出ねぇんだから仕方ないだろ」
コイツ、開き直りやがった。
完全にサボる気満々で俺に背を向けている。
また帰ろうかとキレかけて、多分俺が教えないとまた先生が俺を尋ねそうだ。
そしてコイツのツンデレが炸裂する。
…非常に面倒な事になるだろう。
俺は頬杖をついて男を見た。
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