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第55話
「じゃあ期末で赤点回避したらお前の願いを一つ叶えてやるよ」
「…願い?」
「勿論俺が出来る事限定だけどな」
男はうーん、と考えた。
今思いつかないなら終わってからでもいいと言うと男はこちらに振り返った。
人を見下すように笑う顔が見えてムッとした。
まさか無理難題を言うつもりじゃねぇだろうな。
金は1円も出さないからな!と釘を刺しておくと不満そうに唇を尖らせた。
しかしそれは一瞬でまた意地の悪い顔になった。
「どうすっかなぁ…一日奴隷にしてこき使うのも良さそうだ」
「一つだって言っただろ…それにお前が赤点回避する事が絶対条件なんだからな」
「全教科100点取って腰抜かせてやるよ」
いや、それは無理じゃね?と冷静に心の中でツッコミを入れた。
せっかくやる気になったんだから水をさす事は言わないでおこう。
やる気になったおかげで上の空になることもなく勉強会は進んでいった。
窓から差し込むオレンジ色の夕日が図書室を幻想的に照らす。
時計の針を見ると5時過ぎだった。
もうそろそろ終わりにしようと参考書を閉じる。
「もう終わりにしよう」
「ん?あぁ…」
これでやる気になったついでに勉強が楽しいと思ってくれたら俺は何も教える事はないんだけどな。
さて用事も終わったし片付けて帰るかなと思っていたら大事な事を忘れていた。
これがないとさすがに今後も教える時に不便だよな。
帰ろうとしていたが引き止めた。
何だよと嫌そうな顔をしていたが俺は「俺だけ名前を知らないんじゃいつか呼ぶ時あるかもしれないだろ?だから名前教えてくれ」と不自然にならないように言った。
俺的では自然だったが何故か驚いて固まっていた。
「お、お…俺を誰だと思ってたんだよ」
「え?誰って…だれ?」
深いため息を吐かれた。
まさかこの学園の有名人かなにかなのか?
「俺を誰だと思ってるんだ」ってギャグかと思ってた。
しかし知らないし、隣のクラスとかますます分からない。
いくら考えても分かるわけがなく、首を傾げていた。
そんな俺に痺れを切らし呆れた顔をした。
「…はぁ、古城怜牙だ…覚えとけよ三条」
「おう、次は一週間後だから忘れずにまた来いよ」
俺の言葉に反応したからか古城はひらひらと手を振り図書室を後にした。
それにしても古城怜牙か…全く知らないな、誰だ?
とりあえずもう寮に着く頃には勉強会終わってそうだな。
飛鳥にSNSで今帰る事を伝えた。
ーーー
「何処行ってたんだ?」
「えっ、いや…な…なんか怒ってる?」
寮の部屋に帰ると廊下の壁にもたれ掛かり腕を組む飛鳥がいた。
今まで出迎えなんてあっただろうか。
しかも腕を組み待ち構えてるなんて俺の記憶が正しければこんな事なかった。
そういえば飛鳥に話してなかったなと思い出す。
紫乃と始には言ってたからちょっとは聞いたかもしれない。
それで自分には話してくれなかったから拗ねてる…とか?
「悪い悪い、ちょっと勉強見てくれって先生に頼まれてさ」
「誰のだ?」
「隣のクラスの古城怜牙っていう奴なんだけどさ」
靴を脱ぎなるべく場を和ませようと明るく言った。
始達はどうだったんだと飛鳥に質問しながら飛鳥の前を通り過ぎようとした。
何でもない話の筈だった、まさかあんな事になるなんて誰も想像していなかっただろう。
飛鳥は一言「古城?」と呟いた、飛鳥は知ってるのか…転校生の飛鳥が知っていて俺が知らないとかいろいろとヤバイな無頓着過ぎるだろ。
喉乾いたな、水のストックあったっけと考えていたら突然飛鳥に肩を掴まれそのまま壁に押し付けた。
驚いて名前を呼ぼうとしたが飛鳥の唇に遮られて口付けされた。
いつもと違う押し付けるだけの苦しい口付けにもがいて飛鳥を離そうとした。
「…っ」
「はぁ、あ…ごめっ」
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