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第56話
つい口内に侵入してきた飛鳥の舌を噛んでしまった。
口の中が少しだけ鉄の味がした。
血が出てしまったのか口を押さえる飛鳥を心配すると胸ぐらを掴まれた。
飛鳥を本気で怒らせたと顔を青くする。
元々なにで怒っているのか分からないが、謝った方がいいだろう。
飛鳥がいつもの飛鳥に戻るまで謝ったが、飛鳥はこちらを振り向きもしなかった。
胸ぐらを掴まれたまま部屋に入りベッドに押し倒された。
なんだ…飛鳥が別人のようで怖い。
飛鳥はネクタイを外し俺の両手を掴むと拘束し始めた。
「や、やだって…飛鳥っ」
「……」
無言の飛鳥はそのまま拘束した腕を頭の上に押さえつけて俺を見下ろす。
いつものような甘い雰囲気など一切感じられなかった。
俺が隠してたから怒ってる?確かに悪かったけどそんな事でいちいち怒るだろうか、飛鳥だって隠し事してるのに…
じゃあ古城の事?知り合いなのか?でも飛鳥は転校してきたばかりだし…
いくら考えても俺に分かるわけがない、飛鳥じゃないんだし…
怒った飛鳥を直視する勇気はなかったが、震える唇を引き締めて飛鳥を見た。
「あ、飛鳥…古城となんかあったの…」
「うるせぇな」
最後まで言う前に飛鳥の低い声が聞こえてビクッと驚いた。
そしてまた噛み付くようなキスをされた。
ギリギリと腕を掴む手に力を込められ痛みで眉を寄せる。
空いたもう片方の手で乱暴に上着とシャツを脱がされる。
両手が結ばれているから前をはだけるだけの状態になった。
こんな不安定な状態でするのか…?
ズボンに手をかけられ、必死にやめろと訴えるがやはり飛鳥は聞く耳がなかった。
ベルトを外され冷たい風に晒されて震えた。
飛鳥を睨むと飛鳥はジッと俺を見て顔を近付けた。
したくなかったから顔を背けたら耳を舐めてきてぞくっとした。
くちゅくちゅと耳からやらしい声が響き甘噛みされる。
感じたくなくて目を閉じてやり過ごそうと考えた。
しかし下半身は俺の意思など無視して勃ち上がっていた。
握られるだけで情けなく喜びで震えている。
裏筋を撫でられてぴくっと反応する。
俺の反応に満足したのか、緩く触れていた手が大胆な動きになり擦り始めた。
亀頭から溢れてきてぬるぬると飛鳥の手を汚す。
一度イかせようとしているのかだんだん動きが大胆になっていった。
足を閉じようにも足の間に飛鳥の身体が入り込み閉じられない。
そのまま快楽に流されるカタチで腰を震わせ射精した。
はぁはぁと息を落ち着かせる暇もなく飛鳥は奥に手を伸ばした。
もう何度もしているがいきなり指三本ねじ込まれたら苦しい。
いつもと違うなんか急いでるような感じがした。
指に付着した精液を塗り込まれるような動きに苦しい以外の感情が芽生える。
中は熱くなりすぐに飛鳥を受け入れる。
またイかせようとしているのか出し入れする指の動きが早くなる。
「うっ、ふぁっ…あっ、やめっ…」
「……俺に抱かれるのが嫌なのか?」
ふいに飛鳥はそんな事を言った。
嫌なわけじゃないが、一方的な行為をしても身体は満足するかもしれないが心は絶対に後悔する。
指を引き抜き足を広げられた。
ダメだと言うが飛鳥は全く聞いてくれない。
なんだか悔しくて涙が出た。
俺の声はお前には届かないのか?
「あっ!!」
飛鳥のが俺の中をこじ開けて入ってくる。
奥まで入り、すぐに激しく腰を打ち付けてきた。
飛鳥の動きに合わせて俺の腰も動く。
飛鳥と俺の吐息が混ざり合う。
俺の腰を掴む手が少し震えていた。
……飛鳥、やっぱり…
乱暴に中を掻き回されて爪先を丸める。
イってしまう、そう思った。
中にいる飛鳥もさっきより違う中の吸い付く感じに俺が限界が近い事に気付いた。
するとより大胆に動き、俺は甘い声を出すしかなかった。
気持ちいいけど、気持ちよくなりたくなかった。
身体は熱いけど心は寒かった。
「あ、あ、あっあぁぁっ!!!!」
「はぁっ、んっ!」
奥に暖かいものが注ぎ込まれた。
涙の跡が残る頬を飛鳥が撫でた。
何だか疲れたな…目を閉じるとすぐに眠ってしまいそうだ。
夢の中、飛鳥が「…ごめん」と言っていた気がした。
そのまま俺は眠りについた。
ーーー
チュンチュンと鳥の囀りが聞こえる。
ボーっとしながら上半身だけ起き上がる。
寝間着に着替えられた服を眺める。
時計を見るとまだ5時だった。
飛鳥はいなかった。
部屋を出てリビングに向かうが、飛鳥の姿はなかった。
もう学校に行ったのか?こんな朝早くに?
…それとも俺と顔を合わせたくなかったのか?
手首を見ると昨日の跡がうっすらだが見えた。
コーヒーでも淹れようと台所に立つ。
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