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第57話
こぽこぽと踊るコーヒーを見つめる…飛鳥、昨日絶対になにかあったよな。
紫乃と始の勉強会…いや、あの二人と会ってああなるのは考えられない。
じゃあなんだ?もしかして昼間飛鳥がいなくなった事に関係しているのか?
古城の件かもしれないと昨日は思ったが、よくよく考えていたら古城の名前を出す前から飛鳥は怒っていたから関係はなさそうだ。
もしまた今日も飛鳥がいなくなったら後を付けてみようか。
何もないならそれでいいんだけど、昨日の飛鳥は変だしちょっと気になってしまう。
もうあんな事があった後だし、また飛鳥は俺の言葉を無視するかもしれないから直接聞くのはやめた。
コーヒーをマグカップに淹れてミルクを垂らす。
するとテーブルに置いていたスマホが震えた。
コーヒーを持ち近付くと紫乃からのSNSだった。
紫乃は部活の朝練があるからこの時間はもう学校にいるだろう。
そして紫乃のメッセージにはとんでもない事が書かれていた。
『河原くんがバスケ部に入部するみたいだけどなにかあったの?』
飛鳥、何を考えているのか本格的に分からなくなった。
そんな話一言も聞いていないし…いや、あの状況じゃあ話せる感じではなかったのかもしれない。
それにしてもバスケ部ってなんで?意味が分からない。
とりあえず紫乃に『知らなかった』というメッセージを送信した。
これも飛鳥が怒ってた事に関係しているのか、ズズッとコーヒーを飲んだ。
慌てて飲んでしまい軽く舌を火傷してしまった。
いつものように教室に入ると飛鳥の姿はなかった。
そういえばバスケ部にいるんだっけ、紫乃が言ってたしな。
なんかまた飛鳥と気まずくなってしまったな。
…今度は何が原因でなんなのか俺には分からない。
なんで何も言ってくれないんだよ、バカ飛鳥。
今日バイト入れてたのに、もやもやした気分が張り付いてくる。
気持ちを切り替えないとな、梅雨の日でなかなか出来なかった分ちゃんと稼がないと…
夏はバイトがあるが出費も多いから貯めないとな。
ずっと考え事をしていたら話し声が聞こえて教室のドアが開いた。
聞き覚えがある声でそちらを向くと、紫乃と始と飛鳥がいた。
いきなり対面はなんか気まずくて目を逸らしてしまう。
「河原くん凄いね!バスケ初めてなんでしょ!?」
「…まぁな」
「あそこでダンク決めるなんてかっこいいって先輩達興奮してたよ!」
「お前だって結構すばしっこいじゃん」
「えへへ!それが僕の武器だからね」
紫乃と飛鳥が仲良く話していた、見えなくても会話は聞こえる。
まだ話足りなさそうな紫乃に手を振り飛鳥は席に向かった。
なんか言われるかもと身構えていたが、飛鳥は椅子に座り耳にイヤホンを付けて明後日の方向を見だした。
自意識過剰だった自分が恥ずかしくて俺は求人雑誌を見る事にした。
そのまま特に会話はなく、時間が過ぎていった。
さすがに一言も会話をしてない俺達が気になったのか、紫乃達もチラチラとこちらを見てくる。
俺はなにが飛鳥をそんなにイラつかせるのか分からないから迂闊に近付けない。
昼休みになり、紫乃達が俺の机の前にやって来た。
「一緒にお昼食べよう!」
「…あ、あぁ」
「悪い、俺は用事あるから」
飛鳥はそう言うなりさっさと教室から出ていった。
多分あれは俺を避けたんじゃなく、昨日と同じ理由だろうな。
紫乃が「また喧嘩?」と大きな瞳を潤ませながら聞いてくるから安心させるために頭を撫でた。
友人達にまた心配掛けるわけにはいかないな、俺が解決させないと…
食堂に行こうと教室を出ようとした紫乃達に俺は昼飯を断り先に教室を出た。
「なんだあれ…」
「恋人の問題は恋人にしか解決出来ないからね」
「……は?」
そんな会話が後ろから聞こえてきたが、俺は振り返らなかった。
そうだ、俺達の問題は俺達にしか解決出来ない。
それは時間が空けば空くほど修復が難しくなってしまうかもしれない。
ならさっさと話し合えばいい、俺の嫌なところがあるなら言ってくれ…直すから…
俺が嫌いになったなら…仕方ないのかもな。
飛鳥は芸能人で華やかな世界にいる、綺麗な人がいっぱいいるし…男の俺とか疑問でしかないのかもしれない。
飛鳥を探すために動いていた足が止まり、すぐに角に隠れる。
小さいが誰かの話し声が聞こえた、俺には気付いていないようだった。
てっきり飛鳥はいつもの空き教室にいると思ってた。
だから空き教室に向かっていたからまさか廊下の階段近くにいるとは思わなかった。
しかもこの前俺が盗撮犯をおびき寄せた場所だ。
小さ過ぎて会話の内容までは分からない、しかしなにか雰囲気は妙だった…上手く言えないが何となく…
側から見たら怪しすぎるがバレるわけにもいかずこっそりと覗く。
幸い近付いても横を向いて集中しているから気付かないだろう。
帰りにバレるかもしれないからその時はこっそりトイレに隠れよう。
近くにトイレがあってラッキーだ、なんか自分が気持ち悪いな。
ふと何やってんだろと我に返っても足は動けない。
飛鳥は壁に寄りかかっているのが見えた、変装しているが空気は何だかピリピリしている。
そして飛鳥は一人じゃないようで、もう一人の影があった。
飛鳥に寄り添うように耳に唇を近付けて耳打ちしている男がいた。
飛鳥のように綺麗な金髪ではなく痛んでいるような人工色の金髪で根元が黒い。
ピアスを開けている見たかぎりでは真面目とは言えない容姿の男だった。
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