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第58話

飛鳥と同じ身長である男と飛鳥はなにか話していた。 …飛鳥、そんな密着されて何ともないのか? いつもの飛鳥ならなんか言うくらいしそうだけど… そしてさっきの考えを思い出して顔が引きつる。 もしかして飛鳥、芸能人の女性ではなく別の男が好きになったのか? 女性が好きなら勝ち目があると諦められる、しかしまさか他の男に奪われたなんて信じられなかった。 そして飛鳥達は話が終わったのか男を押しのけたので慌ててトイレに駆け込んだ。 二つの足音を聞きながら入り口のドアにへばりつく。 足音が遠ざかり、バレてなさそうでホッと一息ついた。 「……いきなり入ってきて、何してんだお前」 「…え、あ…古城」 どうやらトイレ中だった古城の邪魔をしてしまったらしい。 申し訳ない…まだ近くにいるだろうからもう少し居させてくれ。 それにしてもなんでわざわざ人気のないトイレでしてるんだ?此処に用があるわけでもないだろうに… すっかり出なくなってしまい微妙な顔をした古城は手を洗いながら俺を睨んでいた。 申し訳ないと謝っても睨みは引っ込まなかった。 どうしたものか、トイレに来たし一応しとかないと不自然だろうか。 そう思っていたら古城が蛇口を捻り水を止めた。 「古城、なんでこんなところでトイレしてるんだ?」 「…は?」 「いや、ここの噂知らないのか?」 「噂って幽霊がどうとかっていうアレか?お前あんなの信じてるのかよ」 古城がバカにしたような顔をしてハンカチで手を拭いていた。 別に信じてはいないけど、古城も信じていないという事だろうか。 信じてたらそもそもこの場所に寄り付かないだろと苦笑いする。 すると何処からかカタカタと音が聞こえた。 周りを見ると窓が風で揺れて音を出しているのが見えた。 俺は横を無表情で見た、重いし暑苦しいんだけど… 「古城、怖いのか?」 「はぁ!?そんなわけねぇだろ!」 「でも隠れてる」 「…くそっ、トイレで覗いてくる奴さえいなかったらこんなところに来る事なかったのに…」 小声で独り言を呟いたつもりだろうが、引っ付かれている俺には筒抜けだった。 トイレで覗かれたのか、そりゃあ人がいないトイレを使いたくなるな。 俺が歩くと自然と古城も歩き出し、俺達はトイレを出た。 古城は俺が何しにトイレに来たのか分からないが、このトイレは怪奇現象が起きると勘違いしているから一刻も早く離れたそうだった。 古城と別れて俺は紫乃達と合流しようとSNSを送った。 紫乃達はまだ食堂にいるらしい、俺は食堂で食う時間はないから購買で適当に買って食堂に向かう。 食堂は食べ物持参で行けるから食堂でパンを食べるか。 食堂に行くと俺に気付いた紫乃が手を振っていた。 俺は紫乃と始が座るテーブルに近付き椅子に座る。 俺は紫乃に聞きたい事があって食堂までやって来た。 パンの袋を開けて一口食べる、食パンを食べる俺を紫乃と始は不思議な顔をしていた。 食欲がなかったが身体は欲していたのかすぐに完食した。 放課後バイトあるし、空腹で動けなかったら大変だからな。 「紫乃、先輩のお前に聞きたい事がある」 「ん?なに?」 「は?先輩?」 紫乃と始は突然の事で首を傾げていた、早急過ぎた…ごめん。 俺は浅いし紫乃の方が長いし、紫乃は俺にとって人生の先輩だ。 紫乃は真剣な俺に気付いてくれて始に「始、ちょっと席外してくれる?…ごめんね」と言っていた。 始は理由が分からず不審な顔をしていたが先に教室に戻ってると言って食堂を出た。 始に悪い事してしまったな、バイト帰りに始の好きなシュークリーム買って帰るかな。 まだ結構食堂には人がいて、でもがやが気にならないぐらいに俺達の間に緊張が走る。 「河原くんの事だよね、なんかあったの?」 「…紫乃、俺…男として魅力ないのだろうか」 「え?優紀くんはカッコいいよ?」 紫乃は友達フィルターが掛かっているからそんな事が言えるのだろう。 まさか友達に恋の相談をする日が来るなんて思わなかったな。 俺は飛鳥の浮気現場は言わなかった、飛鳥に直接聞いてないし…まだ浮気とかを信じたくなかった。 飛鳥とちょっと上手くいかない感じとだけ言った。 男同士の事は男同士の恋人を持つ奴に聞いた方が確実だろう。 紫乃は考える、今までこんな相談をされた事がないのだろう…この前は紫乃からの相談だったからな。 「うーん、優紀くん達ってエッチな事してるんだよね」 「…ごふっ」 喉が渇いたからコップに入った水を飲んでいたから噎せた。 口を押さえて涙目で紫乃を見つめる、紫乃には悪気はないんだけどな。 紫乃は察しが良くて知っているのは知っていたがこうはっきり言われるとドキッとした。 小さく頷くと先輩紫乃は再び唸り出し悩み出した。 え?なんか悪いところでもあるのか?紫乃に下の話をしても困ってしまった…とかか? 不安げに紫乃を見つめると紫乃は目を見開いてビビった。 「もしかして優紀くん、マグロ?」 「…まぐ、え?魚?」 いきなり紫乃は俺を魚だと言ってきた、まさか生臭いのか?身体のにおいは自分ではよく分からない。 「俺は人間だ」と言うと紫乃は生暖かい目で見てきて首を横に振った。 …な、なんか…紫乃にバカにされてるみたいで拗ねる。 マグロは魚だろ…他の意味なんてないだろ。 そして紫乃に丁寧にマグロについて説明された。 マグロとはまな板の上のマグロのようにベッドの上で動かない受け身過ぎる状態のようだった。 俺は専門用語だったようで顔を赤くして下を向ける。 俺は飛鳥にちょっかい出していたが、確かに受け身ばかりだったかもしれない。 しかしどうすればマグロじゃないのか分からない。 紫乃は始と経験はないがいつかのために勉強をしてるから無知な俺より知識は豊富だ。 「…紫乃、どうしたら良いんだ?」 「優紀くん、襲っちゃえ」 「は!?」 「河原くんにマグロじゃないって教えとけ!」 可愛い顔をしているのに顔をキリッとさせて俺の肩に手を置く。 俺がつまんないから飛鳥はあの男のところに行ったのか? それだけで飛鳥は浮気するのか疑問だが、俺には心当たりがない。 襲う…か、つまり昨日飛鳥がした事をすればいいだろうか。 しばらく考える、飛鳥に力で勝てるか分からないが何とかすれば… 試してみるか、飛鳥も昨日俺を襲ってきたし仕返しとして襲おう。 幸い昨日の飛鳥は勃ってたし、心はなくても身体は正直だよな。 嫌われるならとことん好き勝手やって嫌われた方がいい。 中途半端に消滅するよりすっきりするだろう。 ……好きって気持ちはなかなか消えないだろうけど… 午後の授業、そして放課後と飛鳥と一言も話す事はなかった。 紫乃は飛鳥を部活に誘うが今日は用事があるようで断っていた。 俺はバイトに出かけるために学校を後にした。 今日のバイトはキグルミを着てチラシを配る仕事だ。 …聞いてるだけで暑くなりそうだけど、無理に笑顔を作る必要はないからいいや。 今夜に決行する、俺だってやる時はやるんだと教えてやる。

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