61 / 82
第61話
※河原飛鳥視点
俺はいつものように優紀と学校に向かっていた。
何も変わらない世間話をしながら校舎に着いた。
下駄箱を開けると俺のところに手紙が入っていた。
差出人も宛名も書いてない真っ白な手紙だ。
男子校でラブレターという発想がなかったから果たし状かなにかかと眉を寄せる。
優紀とは下駄箱が離れているから俺の異変に気付いてはいないようだ。
中身を覗くと紙と数枚の写真が入っていた。
紙には俺を呼び出す内容が書かれていた。
『昼休み、幽霊が出るという廊下の隅の階段で待つ…怖いなら来なくてもいいよww』という内容だ。
煽る内容で正直写真に素顔の俺が写ってるとかどうでも良くなるほどに怒りが込み上げてきた。
腹立つなと紙を手紙の中に戻し丸めて近くのゴミ箱に投げ捨てた。
「飛鳥、行こうぜ」
「…あぁ」
俺を呼びに来た優紀と一緒に教室に向かった。
これは喧嘩売られたんだよな、上等だ…買ってやるよ。
それにあの盗撮写真、優紀を隠し撮りして売った奴の気がする。
止めさせないとまたあんな変態が増えるのはごめんだ、優紀は俺のだってのに…
それから何事もなく時間は進んだ。
優紀に一応行く場所伝えようかと思ったが、優紀にまた怖い思いはさせられないなと止めた。
それに優紀は教師に止められていたからそれどころではなさそうだった。
…何の用なのか気になったが、後で優紀に聞けばいいか。
廊下に出て呼び出された場所に向かう。
いい思い出がない場所だから正直行くのはためらうが本物の盗撮犯の顔を拝んでやりたかった。
「来たんだ、来ないかと思った」
「俺の性格分かっててあんなふざけた手紙寄越したんだろ?」
「まぁね、自己紹介の時強烈だったから」
派手な金髪を揺らしクククッと笑っていた。
俺の自己紹介を知ってるって事は同じクラスの奴か?
クラスメイト全員把握していないから誰だか分からない。
笑いを一旦止めて俺に一枚の写真を見せた。
風呂上がりでリビングにくつろいでいる俺がいた。
確かあの時、優紀に「ちゃんと拭かないと風邪引くぞ?」と言われて肩に掛けてたタオルで少々乱暴に髪を拭かれたな。
ちょうどその場面を写真におさめられていた。
「まさか大人気アイドル緋色がこんな平凡な学校に転校してくるなんて…しかも男とイチャついている」
「…あー脅しか?週刊誌に売りに行くか?どうぞご勝手に」
「あれ?もっと取り乱すかと思ってた」
「当たり前だろ?だってそれは緋色じゃない、河原飛鳥の写真だ…週刊誌が緋色とかけ離れた容姿の一般人に食い付くか?それにもし食い付いても俺が考えなしの間抜けだと思うか?」
俺が何故盗撮犯に撮られてると分かった上で素顔を晒したと思うんだ?
優紀を撮るのを止めさせる事が第一だが俺だって考えなしではない。
STAR RAINは後ろ楯が分厚いから今までスキャンダルとか一切なかったんだ。
俺と圭介はスキャンダル自体ないが幸人はいろいろとグレー時々真っ黒な事をしていても世間は何も知らず弟にしたい芸能人一位に幸人を指名する。
使った事はないが利用できるなら利用するに限るだろ?
男は突然クスクスと笑い出した。
「ははっ、確かに君の事務所は怖そうだし…面倒な事は嫌いだ」
「じゃあ俺に何の用だよ」
「……君には事務所があるけど三条優紀には何もない」
チッと舌打ちして男を睨んだところをシャッターを切られた。
無断で写真撮ってんじゃねぇと言いたいが早く用件を終わらせたくて黙る。
なんだコイツ、言葉の一つ一つが人を小馬鹿にしている言い方をする。
気のせいならいいが、半笑いの腹立つ顔をしているから気のせいではないだろう。
優紀が目的ならなんだ?まさか優紀に変な写真を撮らせろとかいうなら今すぐそのカメラのレンズを壊す。
しかし男の言葉は俺が思ってる内容ではなかった。
「俺、三条優紀に興味ないから小遣い稼ぎでしか価値はないんだよ」
「…価値?なんでテメェが価値を語るんだ?」
さっきとは比べ物にならないほどの怒りを感じた。
俺はただステージに立つだけのからくり人形だった。
そんな俺に感情を与えてくれた、生きる意味を知った。
人と一緒に食べる喜びを知った。
独占欲と大切な相手を守るために他人に怒りを覚えた。
甘いだけじゃなく、胸が締め付けられる恋を知った。
傍にいるだけで笑顔にしてくれる、それが三条優紀だ。
俺の全てである優紀が無価値だと言うなら俺はなんだ?存在を否定しているのか。
「テメェには一生分かんねぇよ、無価値な人生を送ってるテメェなんかに…」
「…うーん、そうかもね…だから俺に価値ある面白い人生を提供してよ」
なんで俺がそんな事しなきゃならないんだよ。
俺に近付いてくる男を押し退けてその場を後にした。
もう二度と会いたくない、今誰かになにか言われたら殴り飛ばしそうなほどイライラしていた。
教室に入ると優紀がいた。
それだけでさっきまでのイライラがスッと消えた。
我ながら可笑しいなと笑う。
優紀とは当たり障りのない会話をした。
アイツの事は優紀には言わなかった。
優紀はこれからバイトで忙しそうだからな。
それにもうアイツの事は記憶から抹消したかった。
それ以上何も聞かない優紀に感謝する。
優紀もなにかあったみたいだし、お互い様か。
今日は放課後はアイツらと勉強会か、まともに集中してやってくれるようになったから楽でいいけどな。
そう思っていたら電話が掛かってきた。
スマホをチラッと見るとマネージャーからだ、仕事の話か。
しかし今はもう午後の授業が始まってるし出れるわけがない。
終わったら折り返しの電話入れればいいかと思いながら、簡単すぎて退屈な授業を眺めた。
放課後になり、背伸びをする優紀を見る。
本当に猫みたいな奴だよな、気ままで自由な感じが俺にとって気楽になれる。
頭かたい奴はどうも苦手なんだよな、柔らかくしろと言いたくなる。
先に優紀が立ち上がり俺も立つ。
「ん?優紀、今日バイトか?」
「いや、今日はちょっと用事があってな…飛鳥は勉強会か?」
「…あー、面倒」
なんだ、今日は優紀いないのか…顔に出さないが落ち込む。
なんか一気にやる気がなくなった、サボろうかな。
ともだちにシェアしよう!