5 / 11

第1―5話

「トリ!」 合鍵で玄関の扉を開けた途端、吉野の羽鳥を呼ぶ声とパタパタと走る足音が聞こえる。 羽鳥は自然と笑顔になりながら、素早く革靴を脱ぎ羽鳥専用のスリッパに足を突っ込む。 「トリ!」 吉野が姿を現わし、羽鳥の笑顔はより一層甘さを増す。 増すが。 羽鳥の眉間に皺が寄る。 吉野はパジャマこそ着ているが、何も羽織っておらず、しかも素足だ。 羽鳥の前で、子供のようにわくわくした顔に大きな笑みを浮かべてちょこんと立っている吉野を羽鳥は抱き上げた。 「ちょっ…な、何だよ!?」 「何だよ、じゃない。 お前はいつになったら体調管理という言葉を理解するんだ? そもそも学習能力が無さ過ぎるだろう」 羽鳥自身も10日以上ぶりにあった恋人に会うなり説教もどうかと思うが、言わずにはいられない。 だがいつもなら何だかんだと口答えしてくる吉野が妙に静かだ。 羽鳥の首にしっかり腕を廻してしがみついて黙っている。 「吉野、聞いてるのか?」 「…じゃあトリがしてよ」 「はぁ?」 「俺のダメなとこ。 トリが直してよ」 耳元で拗ねた口調で告げられる。 羽鳥は、はあっとため息を吐く。 思わず自分達を取り巻く状況なんてすっ飛ばして、誘ってるのかと押し倒したくなる。 これが無自覚なのだから手に負えない。 羽鳥は吉野をソファに下ろしてやると、カーディガンと靴下と吉野専用のスリッパをひと揃い用意してやった。 「メシは食ったのか?」 羽鳥は吉野の隣りに座ると言った。 「うん。 優が最後の晩餐だって言ってしゃぶしゃぶ作ってくれて、二人で食べた。 トリは?」 羽鳥は吉野の顔を凝視した。 「俺はちょっとサンドイッチを摘んだ程度だが…俺のことはどうでもいい。 それより最後の晩餐ってどういうことだ?」 吉野が顔をパッと赤くして俯く。 カーディガンの裾をもじもじ弄っている。 「だから…トリ、優から聞いたんだろ? 俺が倒れて通院してて薬も飲んでたって」 「ああ」 「それも今日で終わり。 今日病院でもう大丈夫だって言われた。 だから優が今日で俺の世話をするのは最後にする、後は羽鳥を呼べって言って…」 羽鳥が吉野を強く抱きしめる。 「トリ?」 「俺が…世話をしていいのか?」 「?何で? 今までずっとそうだったじゃん」 「……これからも?」 「トリどうしたんだよ? 俺達これからもずっと一緒だろ?」 「……!!」 羽鳥が吉野の唇を塞ぐ。 吉野は最初呆然とされるがままだったが、舌と舌が触れ合うと、身体をビクッと揺らした。 反射的に逃げようとするが羽鳥に後頭部を押さえられ、顎を掴まれ動けない。 羽鳥は吉野の舌をきつく絡め、舌先を甘噛みする。 「んん…ンーッ…」 吉野の喉の奥から甘い啼き声が聞こえる。 その声を聞く度、まるでスイッチが入るように羽鳥の身体は熱くなる。 羽鳥が存分に口腔を舐め回し唇を離すと、吉野はくったりと身体から力が抜けていた。 羽鳥は慎重に吉野の後頭部にクッションを置いて、吉野を横たえてやる。 吉野はゆっくり瞳を開けると涙目で羽鳥を睨んだ。 「トリの馬鹿…。 急になにすんだよ…」 「ごめん、千秋」 羽鳥が宝物でも抱くように、そっと吉野を抱きしめる。 「もう…!トリのせいなんだからな!」 吉野は真っ赤な顔をぷいっと背ける。 吉野の下半身は反応している。 羽鳥もとっくに吉野以上に反応しているが、病み上がりの吉野を抱くわけにはいかない。 「千秋…」 羽鳥の大きな手がパジャマの上からゆるゆると吉野自身を扱く。 「ん…あ、や…」 「嫌だったらやめる。 千秋をイカせるだけだ。 大丈夫そうか?」 吉野が羽鳥に両腕を延ばす。 「寝室でなら…」 羽鳥は吉野を抱き上げた。 羽鳥は寝室が十分に暖まると、ゆったりとキスをしながら吉野を裸にした。 自分はスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを外しただけだ。 久しぶりに見た吉野の細く白い身体は羽鳥の欲情を掻き立てる。 だが普段は簡単に焼き切れる理性を総動員する。 羽鳥はまず吉野の胸の突起を吸っては舐め、時折歯を立てる。 「やあん…!やっ…だめ、トリぃ…」 普段からは想像もつかない艶かしい声が寝室に響く。 乳首がぽってりと腫れ上がると、羽鳥の顔は吉野の下腹部へと移動する。 吉野は体毛が薄く、手足もまるで女の子が無駄毛の処理をしたようにツルツルだ。 陰毛も例外ではない。 実は下の毛を処理してますと言われても信じるくらい、無毛に近い。 吉野はそれを中高生の頃は修学旅行などで恥ずかしがっていたが、その頃から羽鳥にとっては惹き付けられてやまなかった。 自分は普通と違う性癖なのかと悩んだこともあったが、吉野と恋人同士になると素直にかわいくて堪らなく思える。 吉野の薄い桃色のそこは健気に勃ち上がり、ふるふると震え透明な雫を零している。 羽鳥はまず淫らに指を絡めた。 吉野が堪らず喘ぎ声を上げる。 けれどその内焦れて腰を揺らす。 そこで羽鳥は昂りを下から大きく舐め上げる。 散々先端をしゃぶって、喉の奥まで咥える。 羽鳥が口を窄め、頭を上下しだすと、吉野から悲鳴のような声が上がる。 「やあっ…だめ…も、出ちゃう…出るっ…」 「いいよ。出せ」 「やっ…トリも…いっしょ…」 羽鳥は自分の耳を疑った。 愛撫が止まる。 「千秋?」 吉野の顔を覗き込む。 吉野は真っ赤な頬にポロポロと涙を零しながら、たどたどしく 「トリも…いっしょが…いい」 と告げる。 羽鳥はベルトを外しスラックスの前を寛げ、猛る自身を取り出す。 吉野の雄に擦り付け、痛覚ギリギリのところで吉野を責める。 「あっ、あっ…も、だめっ…イかせてっ…」 吉野が白い喉を晒して仰け反る。 その時、吉野の手が羽鳥の雄に触れた。 「……ッ」 羽鳥の手に力がこもる。 「アアッ…やーーーっ…」 吉野が白濁を散らすのと羽鳥が達したのは同時だった。 羽鳥は吉野をそのまま寝かせたまま後始末を全部してやった。 自分はさっとシャワーを浴びた。 明日は土曜で特に休日出勤しなければならない仕事も無い。 吉野は恥ずかしいのか羽鳥に背中を向けて寝ている。 羽鳥がやさしく後ろから抱きしめる。 羽鳥はどうしても今夜中に聞きたいことがあった。 「吉野…ちょっといいか?」 「…ん?…」 吉野の返事は頼りない。 もう眠たいんだろう。 だが聞かずにはいられない。 「吉野。俺が怖いか?」 「ん?…怖いって…なに…?」 吉野が羽鳥の腕の中でゆっくりと反転し、羽鳥の胸に顔を埋める。 そして小さな欠伸をした。 羽鳥はフッと笑って吉野の髪に顔を埋めた。 「おやすみ、千秋」 そう今夜、吉野の眠りを妨げないことより重要なことなどありはしない。 羽鳥はそう胸で呟いて瞼を閉じた。

ともだちにシェアしよう!