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第1―7話

羽鳥が吉野の唇にキスを落とす。 衝動を押さえ込んでいるのが吉野にも伝わる。 だが唇は触れただけで離れていった。 吉野がゆっくり瞳を開けると、羽鳥はもう立ち上がっていた。 「トリ?どこ行くの?」 「どこ行くって」 羽鳥が困ったように笑う。 「お前の飯作りに決まってるだろ」 「でも…まだいいじゃん…」 吉野が拗ねたように言って、羽鳥の手を掴む。 羽鳥は空いている片手で吉野にデコピンをした。 「いたっ!」 「ったく…無自覚に誘うな!鈍感! 自分の体調を考えろ!」 羽鳥は不機嫌にそれだけ言うと、足早にキッチンに向かった。 羽鳥は夕食までに月曜と火曜の分の作り置きのおかずを作った。 吉野はその間、羽鳥の姿が見えるダイニングテーブルに座って、漫画を読んだりキャラのラフを描いたり、思いついたプロットを書き留めたりして過ごした。 夕食は和食にした。 吉野は大喜びして食べていた。 それから羽鳥は風呂の準備に取り掛かった。 吉野はシャワー派だが、羽鳥が入浴剤を選んでやり、宥めてすかして湯船にも入らせた。 吉野は風呂から上がると、当然のように「トリも入れよ」と言った。 だが羽鳥は、明日までに仕上げなければならない仕事を持ち帰っていて、もう帰らなければならないからと断った。 吉野はぷうっと膨れた。 「じゃあ今日は泊まらないの?」 吉野が寂しそうに羽鳥を見上げる。 冬の夜空のような澄んだ黒目がちの大きな瞳が濡れたように光っている。 羽鳥は勘弁してくれと心の中で叫んだ。 吉野と一晩一緒にいて、何もせずにいられる訳がない。 「すまん。 その代わり吉野が眠るまで帰らないから」 吉野は小さく微笑んで「うん」と言った。 吉野はベッドに横になっている。 その横には羽鳥が座っている。 それだけでも羽鳥には刺激的だが、吉野に 「俺が眠るまで一緒にいてくれるんだろ!」 と言われると断れなかった。 吉野はクリスマス・イヴの予定を羽鳥から何とか聞き出そうとするが、羽鳥は「当日までのお楽しみだ」としか言ってくれない。 それでも吉野が「クリスマス・イヴ楽しみだなー」とニコッと笑って言った時、ふと羽鳥は思い付いた。 23日のクリスマスパーティーに吉野達は何をするんだろう? 「吉野達のパーティーの準備は誰がするんだ?」 「ああ…それね」 吉野が楽しそうに話し出す。 「料理とゲームの準備はアシの子達がしてくれるって。 すっげーはりきってた! お酒なんかは優が担当してくれる。 優は食べ物や飲み物に拘りがあるじゃん? だからそっちも超楽しみ!」 「そうか。 良かったな」 羽鳥が微笑んで吉野の頭を撫でる。 吉野も笑顔のまま「うん!」と頷くと、ふわぁっと大きく欠伸をした。 「ほら、もう眠いんだろ? 目を閉じろ」 「でも…」 「約束しただろ。 眠るまで傍にいるから」 羽鳥が大きな手で吉野の目元を隠すように触れる。 吉野は素直に目を閉じて、数分後には寝息を立てた。 羽鳥は吉野の家の戸締りをきちんと済ませてから帰宅した。 シャワーを浴びて、明日の仕事の準備を済ませ、発泡酒を飲みながらテレビでニュースを見ていると、世界各地のクリスマスの様子が映し出された。 羽鳥は自分のクリスマスの計画を考え、ひとり笑みが漏れた。 その時、何かが引っかかった。 吉野のクリスマスパーティーの話だと直ぐに気付く。 アシの子達は料理やゲームの準備をする。 柳瀬は酒の準備をする。 じゃあ吉野は? 吉野は最初にクリスマスパーティーの話を切り出した時、何て言った? 『レギュラーのアシスタントの子達に、日頃のお礼に忘年会でもやらないかって提案したんだよ』 『だから俺いっつも迷惑ばっかかけてるじゃん? それでお礼に食事でもどうかなって…』 そして柳瀬が言った…。 『だからアシの子達がそれなら忘年会をかねてクリスマスパーティやりたいって言い出したんだよ』 吉野はアシスタントの子達に普段のお礼をかねてパーティーをしたいのに…なぜ吉野の役割が無いんだ? 吉野が体調を崩しているから? だけど今は良くなったんだ。 吉野だって少しくらい何かやりたがるだろう…。 羽鳥の胸に小さな染みのような不安が広がっていった。 そうして23日がやって来た。

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